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ふれあいの輪は、新しいホームケア・在宅介護を目指して、
(公財)フランスベッド・ホームケア財団によって
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ふれあいの輪

ズームアップひとZoom up Person

丹野 智文氏

認知症希望大使(厚生労働省)

丹野 智文

1974年宮城県生まれ。県内のトヨタ系自動車販売会社でトップセールスマンとして活躍中、39歳で若年性アルツハイマー型認知症の診断を受ける。その後、総務部に異動。会社の業務として認知症の普及・啓発活動を開始し、今日に至る。希望大使(厚生労働省)、一般社団法人認知症当事者ネットワークみやぎ代表理事、公益社団法人認知症の人と家族の会会員、一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループメンバーなどを務める。

認知症は診断直後は工夫して
症状を補えることに気づいていない

現在進行中の認知症施策の肝は、認知症本人の意見や提案を投影した対策作りにある。これまで認知症ゆえに軽視されてきた当事者の声は、どこまで施策に反映されたのだろうか。その問いをぶつけるのに最もふさわしい人物がいる。厚生労働省が発信のキーパーソンに任命した認知症希望大使7人の一人で、地元宮城県仙台市を足場に当事者ネットワークを率いる丹野智文さん(52)だ。取材時間は1時間に満たなかったものの、まさに“目からウロコ”の発言の連発に、本人参加の意義を改めて痛感させられた。以下、会話を忠実に再現してみた。

目からウロコ①
認知症の場合、重度の人の情報ばかりが先行している。
いつも誰かがついてないといけないということはない。

 33歳くらいから、徐々に物忘れが増えてきて。私の場合、人の顔が分からなくなるのが特徴で、決定的だったのは同僚の顔と名前をわすれてしまい、声がかけられなくなったこと。39歳で若年性アルツハイマー型認知症の診断がついて、それから13年、今も出社すると上司の顔や自分の席が分からなくなる時もあります。でも、まったく普通ですよ。顔を忘れてしまっても、同僚に「上司誰だったっけ」と聞ける環境が、そういう関係性ができていればそれでいいんです。

 同僚もまた、私が認知症だからと特別扱いはしません。本人が「助けて」といった時に助けてくれるだけでいい。認知症の場合、重度の人の情報ばかりが先行しているように思えてなりません。確かに助けてもらうケースはたくさんあるけれども、いつも誰かがついてないといけないということはありませんから。みんな先回りしすぎているんですね。

目からウロコ②
サポーターというから誤解しやすい。
一緒に楽しむのだから“パートナー”にしては。

 認知症を正しく理解し、認知症の人を支えてくれる認知症サポーターの数が相当数に達しています。それは大変ありがたいことですが、その名称はちょっと違うんじゃないないかと思います。というのは、サポートする人とされる人の関係になるから。サポートする側は何かしてあげなければと先回りし、本人のできることをすべて奪ってしまう。ご家族もそう、介護職もそうです。失敗させないようにとみんな先回りするから、失敗しないんです。でも、失敗しないことには工夫も生まれませんし、工夫しなければ成功体験も生まれないんですよ。だから認知症の人は自信を取り戻すことができない。認知症サポーターというより、一緒に楽しむという意味で認知症パートナーでいいんじゃないかと思いますね。

目からウロコ③
病気の進行は止められない。でも、
「うつ」「依存」になるのは止められる。

 初めてお会いする人の多くが、「認知症の人とは全く思えない。ホントなの?」と言ってくれます。しかし、残念ながら病気は年々進行していて、再検査するとやっぱり間違いないんです。でも私、病気は止められないけど、止められるものが2つあると思っています。一つは家族の心配です。間違いがあってはいけない、人に迷惑をかけるからと財布を、ケータイを取り上げる。1人で出かけるのを禁止する。そうすると認知症になった本人は申し訳ないという気持ちがあるため、「自由を奪うな」とは言えません。したいことの全てをあきらめるから「うつ」になる。こういう人が本当に多いと思います。止められることのもう一つは、失敗しないようにと周りが先回りすること。本人は、やってもらうことが最初のうちはいやなんだけど、何度もやってもらううちにその方がラクになり、いつしか委ねてしまう。結果、家族や支援者がないと不安になる「依存」という病気を生みだすんですよ。うつと依存は防げます。なぜなら、周りがつくりあげる症状だから。

目からウロコ④
認知症は工夫すれば補える。
私の場合、ケータイを使えばまず困らない。

 私が認知症と分かったころ、ケータイはガラケーからスマホに変わる過渡期でした。そのスマホがどんどん進化したので、今の私はだいたいのことに困っていないんですよ。毎日のように講演活動で全国を飛び回っています。目的地のホテルに着いて、主催者から「明朝何時ごろ迎えに行くよ」と言われても記憶はできません。そこでスマホのアラーム機能を使います。アラームの画面に文字が打てるの知ってますか? 起きる時間、朝ごはんの時間、チェックアウトの時間、全部設定しておくんです。アラームが鳴るだけでは何の用事か分からないけど、併記されているから分かる。ホテルについて最初に何をするか分かりますか。部屋の入口の写真を撮るんですよ、でないとルームナンバーが分からないから。また、出かけた先で道に迷ったときはグーグルマップで検索する。

 こういうふうにスマホを上手に活用すれば困らない。ほかにも、言葉が出てこないこともあります。この間娘がピアスをしていましたが、そのピアスという言葉が浮かばなかった。チャットGPTに「女性が耳に着けるものは何?」と聞いて解決しました。ただ、私のようにケータイやスマホを使いこなしている認知症の人はほとんど見たことがないですね。年長者が多くて操作に慣れていないのでしょう。認知症の人はすぐ忘れてしまうからメモを欠かせません。知り合いのおばあさんに、模造紙をテーブルクロスにしてそこに書き込んでいる人がいます。メモした紙をどこに置いたか忘れてしまうから。これだって工夫ですね。

目からウロコ⑤
福祉の世界はまだまだ古い。これからの施設は
フリーWi-Fiがなければ誰も行こうと思わないんじゃないですか

 スマホがこれだけ普及したのに、今も「ケータイを持ってこないでください」というデイサービスが多いのには失望します。また、ケータイOKと言いつつWi-Fiが入っていない施設がほとんど。まだそういうところに目が届かないと思うんですよ。で、私たちがそれに怒ったり落ち込んだりすると、今度は認知症特有の周辺症状だ、BPSDだと言われてしまう。これが現実です。福祉の世界は世の中から相当遅れています。これからの施設はフリーWi-Fiでなければ誰も行こうと思わないんじゃないですか。