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ご意見・ご感想

ふれあいの輪は、新しいホームケア・在宅介護を目指して、
(公財)フランスベッド・ホームケア財団によって
運営されています。

ふれあいの輪

在宅ケアケース事例Home care case example

白澤 正和氏

国際医療福祉大学大学院教授
日本ケアマネジメント学会理事長

白澤 政和

深刻化する老老介護の現実
家族の支えと社会の役割とは

Aさん(83歳、女性)は要介護4で認知症があり、自力での食事は可能ですが、移動やトイレには介護が必要です。妹(77歳)が毎日の仕事を抱えながら介護を担当していますが、体調不良を訴え、困難を感じています。Aさんは老人ホームへの入所を拒否し、自宅での生活を希望しています。ケアマネジャーはAさんの希望を尊重しつつ、妹さんの介護負担の軽減とAさんの生活の質の維持を目標にして、サポートを模索しています。

今回の事例

髙木 はるみ氏

株式会社RL
あおぞらケアプランセンター

冨田 洋介
(日本ケアマネジメント学会認定ケアマネジャー・社会福祉士)

高齢者Aさんの状況

Aさん(83歳、女性)は現在、要介護4と認定されており、認知症の日常生活自立度はⅡaです。健康面では、喘息発作、高血圧、肥満症といった持病を抱えています。体重は67キロ、身長は163センチ。自力での食事は可能ですが、トイレでの動作やベッドから車椅子への移動には介護が必要です。

認知機能には短期記憶の保持が難しく、例えば約束の時間を忘れてしまうことがありますが、情緒は安定しています。膝に痛みがあり、立ち上がる際には物を持つ必要があるため、支えがないと立ち上がることができません。

社会的交流としては、週に4回のデイサービスを利用しており、その際には他の利用者と交流していますが、元々、話が不明瞭で、会話が困難なことがあり、おしゃべり上手とはいえません。

家族構成と介護の現状

Aさんの妹(77歳)は、同じマンションの別階に住んでおり、週に5日、8時から15時まで仕事をしています。そのため、Aさんの食事の準備や生活支援を行うことができるのは、主に仕事のない日や仕事後の時間です。妹自身も膝や腰に痛みを抱えており、日常的な介護と仕事の両立が難しくなってきました。妹の家族には、30代の引きこもりの同居の息子がいます。

Aさんの娘は疎遠で孫(20歳、女)が働きながら、家事や軽い介助を担当していますが、フルタイムでのサポートは難しいため、部分的な支援にとどまっています。

妹はAさんの介護を担っているものの、腰や膝の痛みがあり、物理的な介護負担が増し、精神的なストレスも大きいと語っています。

Aさんの介護に対する態度

Aさんは、妹に対してしばしば高圧的な態度を取ります。特に、Aさんは喘息で3か月前に2週間の入院体験があり、退院後の喘息の薬の吸入は妹に頼るところが多く、妹にとっては負担が大きいと感じられます。Aさんが自力で薬を管理するには限界があるため、妹のサポートが必要です。

デイサービス利用中であればAさんは自分で吸入を行えますが、妹がいるときには依存してしまいがちです。Aさんは、自分がこれまで妹や甥の面倒を金銭面も含めて看てきたのだから、妹や甥がAさんの面倒を見るのは当たり前と考えているようです。

妹の仕事と介護の両立よる今後のケアプラン

Aさんの妹は、日常生活の支援や介護と仕事の両立において、特に体力的な疲労が問題になっています。最近では、腰と膝の痛みが2か月ほど前から続いており、体調もすぐれない日が多くなっています。

老老介護の問題が表面化し、妹自身の健康状態や仕事との両立が課題となっています。訪問看護、デイサービス、訪問リハビリのサービスが提供されているものの、今後のケアプランについては調整が必要な状況です。訪問看護では、Aさんの体調管理を行っており、訪問リハビリでは身体機能の維持・改善を図っています。デイサービスでは、口腔内のリハビリを訪問リハビリと連携し、自宅では難しい入浴や余暇活動の支援を行います。今後のケアプランの変更では、妹の介護負担軽減のための具体的な対応が求められています。

Aさんの希望とケアマネジメントの役割

Aさんは老人ホームに入ることを強く拒否し、住み慣れた家にこだわりを持っています。これは、Aさんの生活の質を維持するためには重要な要素であり、ケアマネジャーはその希望を尊重しながら、適切なサポートを提供しなければなりません。

Aさんについては、ADL(日常生活動作能力)の維持と体重の管理が課題であり、食事の栄養バランスや運動の導入を検討する必要があります。Aさんには偏食があり、とりわけ菓子パンが好物で、肥満の原因となっています。喘息の管理も重要な課題であり、適切な服薬と症状のチェックが必要です。さらに、Aさんの認知機能や話し方の問題に対しては、スピーチセラピストの介入があり、これにより会話の質を向上させることが期待されています。

なお、妹の息子の引きこもりも、妹家族にとっては大きな課題です。

ケアマネジャーは、家族との連携を密にし、AさんのQOL(生活の質)を維持しながら、介護者である妹の介護負担の軽減を図ることが求められています。介護サービスの調整や家族への支援、さらには妹自身の健康管理と介護負担軽減のための対策が必要です。将来的には、ケアプランの見直し、Aさんと周囲が快適に生活できるような環境を整えていくことが求められています。

Aさんの1週間のスケジュール

デイサービス:週4回(平日および日曜日)
訪問介護:週1回
訪問リハビリ:週1回

(令和6年3月時点)

障害高齢者の日常生活自立度/B2

認知症高齢者の日常生活自立度/Ⅱa

既往歴 /喘息発作 高血圧 肥満症 BMI25.2 身長163cm 体重67キロ

食事  /目の前に用意してあれば可能

排泄  /ベッドから車椅子、車椅子からトイレに介助必要 ズボン等を十分にあげることができない。陰部を十分に拭くことができない

入浴  /デイサービスにてリフトを利用し入浴

身体状況/膝の痛みがあり

社会交流/デイサービスに通い、コミュニケーションが取れる。それ以外の外出はない

家族構成/妹(77)が買い物や調理など全般に行っている。しかし、妹も就労(週5日8時から15時ごろ)している

※本人およびご家族の許可を得て掲載しています。(一部修正あり)

今回のポイント

老々介護は今や介護の一般形となった。
当人に限らず「介護者を含む家族全体を支援する」姿勢は、
今後の単身要介護高齢者支援時代に必ず活かされる。

要介護者を支援する介護者の高齢化が進んでいます。現在、主たる介護者の半数以上は65歳以上であり、75歳以上の後期高齢者となると約3分の1以上であると言われています。その意味で、本事例の老々介護(83歳と77歳の姉妹)は、一般的な介護の姿に近いと言えます。

① 介護者が可能な介護を見極める

老々介護におけるケアプランにおいて最も重要なことは、「介護者が可能な介護の内容を継続的に見極める」ことです。本事例の場合、介護者は77歳の後期高齢者ですが、今も働いており、同じマンションの別の階に居住しています。こうした状況に加えて、介護者側の介護についての思いも理解して、プランを作成することが第一のポイントです。

介護者には腰痛があるため、「どのような介護を、どの程度ならできるのか」の話し合いがまず必要になります。その際、妹さんの思いに立って支援するだけでなく、介護者の本音を理解するため、Aさんのいないところで相談する気配りも求められます。その結果明らかになった妹さんにできない介護を誰にやってもらうのか、介護保険のサービスでできるのか、それでは担えない緊急時対応などのインフォーマルな支援は誰にお願いするのか、をプランニングしなければなりません。当然、そうしたプランへの了解をAさんからとることも、ケアマネジャーの重要な役割となります。

② 介護者も含めた家族全体を支援する

老々介護に限らず、ケアマネジャーの本来の役割は「家族全体を支援していく」ことにあります。単に要介護の高齢者を支えるだけでなく、その介護者の支援もまた重要な役割となります。さらには、要介護者と介護者との間にある微妙な人間関係にまでアプローチすることが求められます。本事例の場合、Aさんは「これまで何かと面倒をみてきた妹が自分を介護するのは当然」と思っており、妹もまた高圧的な態度をとる姉に自分の本心を伝えにくい関係にあります。こうした両者の立ち位置や距離感に配慮し、そこにあるであろう両者の思いを見据えたうえで支援することが重要となります。

③ 孫も重要なインフォーマル資源

Aさんには孫(20歳、女性)がおり、時折家事や介助を柔軟に手伝ってくれます。インフォーマルな資源である孫という存在も、大事な社会資源の一つです。例えば緊急時の対応、あるいは介護保険ではできない支援をしてもらうとか、困ったときに助けてもらうことがあるでしょう。本事例で示されているインフォーマルなケアの可能性はお孫さんに限られますが、ほかにも顔見知りのマンションの住人であるとか、インフォーマルな社会資源との接点を見出すことも今後の在宅生活を送るうえで必要となります。

④ 在宅生活の限界に備える

できる限り長く自宅で生活をしたいというAさんですが、その思いを尊重しつつ、一方で「最期はどこで看取るのか」という話し合いも避けては通れません。若干認知機能の低下が見られますが、まだ本人の意思が確認できる段階であり、「最期の住まいをどのように考えるのか」を、信頼関係を深めていく中で継続的に把握するよう努めていくことが重要です。その先にある大きな目標の「ケース目標の変更」を意識し、ケアプラン変更に備えていく心構えが必要です。ここでいう大きな目標とは、「どこでどのような生活をしたいのか」を長期的に検討すること。そのことがひいては、妹さんの介護の範囲を明らかにしていくことにもなるのです。

⑤ 単身要介護者への支援につながる

Aさんは、週4日デイサービスを利用する以外は、自宅で訪問診察・訪問看護(嚥下リハ含む)と訪問介護のサービスを受けるだけで、大半は自宅で独りで過ごしています。妹さんの支援は、仕事を終えた後か休日に限られており、そういう意味では老々介護事例とはいえ、「単身要介護高齢者をどう支援するか」という近未来の介護課題とも共通項を持ちます。Aさんの場合、喘息・高血圧・肥満症といったさまざまな持病もあり、「昼の見守りをどうするか」「緊急時の対応をどうするか」など、今後起こりうるリスクに対しての予防策を考えていく必要があります。本事例はある意味、単身要介護高齢者への支援の要素を色濃く含んでいます。