MENU

閉じる

ご意見・ご感想

ふれあいの輪は、新しいホームケア・在宅介護を目指して、
(公財)フランスベッド・ホームケア財団によって
運営されています。

ふれあいの輪

福祉用具の活用事例Examples of welfare equipment utilization

“歩ける喜びを皆様に届けたい”
ゴムの力を利用した、世界初の
自力歩行補助具『e-foot』

 「立てる人ならほぼ歩ける」──リハビリの歩行補助・訓練の領域に、とんでもなく魅力的な製品が出現した。それが『e-foot』(株式会社YAMADA)だ。

 開発したのは浜松市内で元接骨院を経営する山田好洋さん(柔道整復師)。発売は2020年12月。翌年には浜松市が主催する起業家育成プログラム「Hamamatsu Incubator(ハママツ・インキュベーター)」優秀賞を受賞し、2023年11月には厚生労働省が選ぶ「障害者歩行サポート」に選出。昨年のHCRでは最優秀賞に輝いた。とはいえ、業界ではほぼ無名に等しいこの器具と開発者に今回はフォーカスしてみた。

こんなんで歩けるようになるなんて…

 実物を目にしたとき、正直少し拍子抜けした。見た目は、腰に巻くベルトに細いゴムチューブを数本つないだだけ。「星飛雄馬の大リーグボール養成ギプスを連想する」という声もあるが、そこまでの“完成された装置感”もない。それなのに、今、日本国内はもちろん、世界中の歩行困難者からの問い合わせが絶えず寄せられ、対応が追いつかないほどだ。革新的な製品というものは、しばしば偶然をきっかけに誕生すると言われるが、『e-foot』もまさにその例のひとつである。

 浜松市在住の山田好洋さん(62歳)は、当時、接骨院や病院で治療・リハビリに従事していた。専門は骨折だが、術後のリハビリを担当することが多く、装具療法(装具を用いて身体機能の改善を図る治療法)を主軸に治療にあたっていた。         デイサービスでは、脳梗塞、パーキンソン病、頸椎の疾患による歩行困難、片麻痺、加齢に伴う筋力低下など、さまざまな理由で“歩く”ことに支障を抱えた人々。歩行支援ロボットによる訓練など、日々多くの特別なケースに向き合っていた。

 そんなある日、著名な歩行支援ロボットを装着しても歩けず、深く落胆する患者に出会う。わずかな希望さえ断たれたように肩を落とす姿を前に、山田さんは無意識に壁へ手を伸ばした。そこにあったのは、筋力トレーニング用の細いチューブゴム。ロボットを外し、ダメもとでその一本を患者の脚の前後に取り付けてみた。

 すると、これまで1センチも上がらなかった太ももが上がり、足が前に出て歩き始めたのである。「ロボットの100倍歩けるよ!」。そう笑顔で口にしたのは患者の方だった。驚いたのはむしろ山田さんのほうだった。

 「えっ、こんなんで歩けるの?と思いました。細いゴムを前と後ろに1本つけただけなのに…。でも、筋肉がついている場所に合わせてゴムを走らせれば、もっと“人間の歩き”に近づけるはずだと感じたんです。僕は学校で筋肉の説明をするときにゴムを使って教えるんですが、筋肉には“起始”と“停止”という付き方がある。それをすべて再現してあげればいいんじゃないかと」

筋力を強化しない限り、人は歩けない

 試作品は約1週間で完成した。奥さんをモデルに装着してみたものの、筋肉の走行を忠実に再現した分、ゴムの本数が多く、扱いづらかった。そこで本数を最小限に減らし、要所を留め具で固定する形へと改良。こうして誕生したのが、電気も機械も使わず、ゴムの力だけで歩行を補助する世界初の歩行補助具──『e-foot』である。

 「完全に立てない人には使えません。でも、立ち上がれるなら、多くの方が歩けるようになります。脳腫瘍の手術後の方が来られたことがありました。手押し車につかまって立つのがやっとで、一歩出すのに何分もかかる状態。しかし、10分ほどリハビリした後『e-foot』を装着したら、ほぼ健常者と同じように歩けたんです。ご本人も“そんなはずはない”という表情でした。脳からの指令が弱いはずなのに、ここまで変わるとは想像以上でした」

 「先日、ホスピスから連絡がありました。50代の末期がんの患者さんで、余命はわずか。その方がどこかで『e-foot』の話を聞き、“もう一度、自分の足で歩きたい”と依頼をくださったんです。すぐに向かいました。髪も抜け落ち、手足は細く弱っていましたが、立ち上がり、自分の足で歩くことができた。『買いたい』とその場で言ってくれました」

 もちろん、これは“偶然の産物”だけではない。背景には、長年装具療法に携わり、その限界を痛感していた山田さんの気づきがあった。

 「歩けない方を歩けるようにする治療は、突き詰めると“痛みの緩和”と“筋力強化”に行き着きます。痛みを和らげるのは注射や薬で可能ですが、その先、歩きを改善するには筋力を上げない限り難しい。もっとファンクショナル(実際の動きができる)な装具があれば…と、ずっと考えていました」

アスリートや介護施設職員にも広がる可能性

 では『e-foot』は、なぜ歩行を助けるのか。

 「筋肉は伸び縮みすることで関節を動かし、身体を動かせます。ゴムも伸びれば縮む──原理は同じで、いわば“外付けの人工筋肉”のようなものです。これを脚に装着し、不足している筋力を瞬時に補う仕組みです。太ももの大腿四頭筋やすねの前脛骨筋など歩行に使う筋肉など、歩行に必要な筋繊維の走行に合わせ、運動学や機能解剖学の視点で設計しています」

 構造がシンプルな分、着脱も難しくない。お腹を軽くへこませて腰にベルトを巻き、垂れ下がったゴムを脚に固定。つま先を上げた状態で一部を装着し、次にかかとを上げて残りを装着する。両脚に着けたら、膝付近の留め具で前後のゴムを連結するだけだ。病気や障害の種類を問わず、慣れれば1分ほどで自分で着脱できるという。

 「活用できる人は非常に多いです。例えば、国内に約3000万人いるといわれる変形性膝関節症。痛みが出ると膝が曲がり、筋肉を使わない歩き方になり、さらに筋力が落ちるという悪循環に陥ります。EMS(電気刺激)で筋肉を収縮させる方法もありますが、『e-foot』ならハムストリングス(太もも裏の大きな筋肉)を使った歩き方に自然と変えられる。筋電図を取れば一目瞭然です。脳梗塞の後遺症で悩む方も、付けたり外したりしてリハビリに変化を持たせることで、装具が不要になったケースもあります」

 「スポーツトレーナーの経験から見ても、アスリートのトレーニングに生かせます。陸上選手が最後にグラウンドを周回する時、本来なら足が重くて動かない。でも、これをつけると驚くほど脚が軽くなり、歩幅も広がる。リハビリだけでなく、競技力向上にも可能性を感じます。疲労骨折や肉離れで試合に出られない選手、一秒を縮めようと日々努力している子どもたちにも使ってほしいですね」

 「介護施設でも効果があります。利用者に装着してもらうことで、まず転倒リスクが減るし、移動が速くなる。歩行リハビリは職員にとって重労働です。慢性的な人手不足の中で、介護現場の負担軽減に大いに役立つはずです。先日亡くなった私の母も車椅子生活でしたが、家の中でトイレに行くときは自分でつけていましたよ」

歩ける喜びを皆様に届けたい

 発売から5年が経ち、販売台数は1000台を超えた。だが、数字以上に『e-foot』の価値を示しているのは、展示会での受賞歴と専門家からの高い評価だ。地元・浜松市の起業家育成プログラム「Hamamatsu Incubator(ハママツ・インキュベーター)2021」優秀賞、厚生労働省による「障害者歩行サポート」の選出、そしてHCR(国際福祉機器展2024)では最優秀賞を獲得。  福祉機器としての社会的意義に共感した大手広告代理店が、無償でホームページ制作を申し出たというエピソードまである。

 最近ではフランスベッドと代理店契約を締結。その際の条件は、“販売員は専門知識の研修を受けた有資格者に限定する”というものだった。現在、研修を修了した社員は全国で約20名。ゴムの力で歩行を補助する世界初の装具は、ついに本格的な普及段階へと踏み出している。

 最後に山田さんはこう語る。
 「歩ける喜びを皆様に届けたい──これが僕のライフワークです。下肢ができたので、今は上肢用も開発しています。すでに試作は完成していますよ。大学の研究者によれば、解析技術が進めば“将来どれだけ筋力が落ちるか”を数年先まで予測できるようになるそうです。そのデータをもとに、将来はドクターが“あなた専用のオーダースーツ”のように装具を作る時代が来るかもしれない。僕の夢は、『e-foot』で培った技術で、そんな未来のリハビリテーションを支えることなんです」

連絡先

株式会社YAMADA
〒432-8051 静岡県浜松市中央区若林町75-1
TEL:053-447-4970
URL:https://efootyamada.jp/
URL:http://www.futto.jp