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ふれあいの輪

介護最前線Front line of Nursing

稲葉 基高氏

災害緊急支援プロジェクト ARROWS

プロジェクトリーダー 稲葉 基高

災害医療支援のプロフェッショナル集団
「陸・海・空」あらゆる手段で緊急出動

「空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”」と呼ばれる存在をご存じだろうか。大規模災害時にヘリコプターなどの航空機を活用していち早く現場に駆け付け、医療活動を展開するプロジェクトである。「Airborne Rescue and Relief Operation with Search」の頭文字をとって「ARROWS(アローズ)」を名称としている。
すでに国内では、前身のピースウィンズレスキュー含め2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、海外では2018年インドネシア・ロンボク島地震、2023年のトルコ・シリア大地震、コロナ被害の際は日本と中国の医療機関等へ緊急物資支援を展開、近くでは2024年1月の能登半島地震において、医療支援や物資輸送などを実施している。そのプロジェクトリーダーであり医師として活動している稲葉基高氏にお話をうかがった。

災害緊急支援プロジェクト ARROWS

ヘリ支援

陸路封鎖の災害に空から医療支援

「72時間の壁」という言葉がある。地震や台風、大雨などの災害があった際、発生から72時間を過ぎると生存率が大幅に低下してしまうタイムリミットを意味する。土砂崩れや倒壊のあった建物から被災者を一刻も早く救出しなければならない。災害が大規模になると、道路や橋が寸断され、簡単には現場にたどり着くことさえできないことも多い。医療支援の拠点となる病院自体が被災しており、医師や職員も被災者となるため、現地だけでの救援活動には限界がある。

こんな時にヘリコプターで医師や看護師が駆けつけ、医療支援を提供する団体が「ARROWS(アローズ)」である。「空飛ぶ捜索医療団」とも呼ばれている。

NGO法人「ピースウィンズ・ジャパン(Peace Winds Japan)」を母体として活動するプロジェクトであり、医師、看護師、レスキュー隊員などで構成される民間の災害支援組織である。災害支援、地域医療、国際協力を3つの柱として掲げ、活動している。

災害派遣医療チームDMATや日本赤十字社などと協調して災害現場で活動を展開している。

災害救助犬

能登半島地震でのARROWSの活動

「記憶に新しいところでは能登半島地震があります。奥能登では孤立した集落が多く、陸路が使えないため、空路で救援に向かいました」と、プロジェクトリーダーの稲葉基高氏は説明する。

2024年1月1日の能登半島地震では災害現場までのアクセスが悪く、支援の大きな障壁となった。幹線道路も使うことができず物資の輸送にも難渋していた。ここで「ARROWS」のヘリコプターによる活躍が注目された。この地震では、「ARROWS」は船も使って支援物資を港付けしている。

「担当したのは孤立が目立った奥能登になります。医師8名、看護師、放射線技師、検査技師、援助活動に必要な物資や機材の調達・管理を担当するロジスティシャンがメンバーとなり、十数名の規模でした」(稲葉氏)。災害救助犬も所属しており、これも能登で活躍している。

ピーク時には30カ所以上の孤立集落が確認されたが、道路の復旧や住民の移送などによって2月には必要な道路の仮復旧を終えたと石川県は発表している。

「ARROWS」は、家電の一部は自治体から支給されないことから、仮設住宅やみなし住宅の方々にテレビや炊飯器などの支援も行っている。入居者それぞれの生活に必要な生活家電を、あらかじめ用意したリストから選んでもらい、選ばれたものをARROWSが連携している家電量販店に発注すると入居者に届くという仕組みを作り、物資支援をしているのである。東日本大震災(2011年)の時は発生から10年ほどにわたって支援を継続し、西日本豪雨(2018年)の時は支援を約5年間続けた。

1.5次避難所の設置と課題

今回の能登半島地震で顕著だったのは、ライフラインがひどく傷ついたことである。電気も水もないので、トイレも使えない、手も洗えない、お風呂も使えない状態だった。

また、1.5次避難所という言葉も耳にすることが多かった。指定されたアリーナでリハビリを受ける高齢者の映像を目にすることもあった。日本では1次避難所から2次避難所(主に仮設住宅)へと移行するコンセプトがあり、この場合、病院や福祉施設など生活や介護の環境が整った施設を2次避難所と位置づけている。しかし、今回の能登半島地震では、福祉避難所の整備が追いつかず、1.5次避難所に待機するケースが目だった。被災したデイサービス施設も再開の見込みが立たないところも多く、現地の病院も災害時は受入のキャパが限られ、介護を必要となる方が順番待ちの方々が1.5次避難所に集まり、滞留しがちになったのである。1.5次避難所が機能していないわけではない。懸命に介護や看護をする方々が多かった。

この1.5次避難所から、重症とまではいえない方々が金沢や富山などの病院施設へ搬送されることもあった。

1.5次避難所から遠方の病院やホテルに搬送することもあり、2次避難所をいかに確保するかが課題とされ、ニュースでも報道されていた。避難先がホテルだったりすると、観光シーズンになると追い出されてしまう可能性もある。避難所への搬送にも「ARROWS」のヘリコプターが利用されている。

「今回のキーワードの1つに『災害関連死』がありました。私の知っている範囲ではこれまでの大規模災害と比較して、災害関連死はかなり少なくなったと認識しています。医療保険福祉の関係者を中心に、さまざまな工夫が現場では展開されたと思います」と稲葉氏は評価する。地震による倒壊や津波などによる直接死とは異なり、避難先での疲労やショック、栄養不良、持病の悪化などによる死亡が災害関連死である。

備蓄

災害対策として2~3日間の備蓄を

施設に求められる平時の対策について稲葉氏におうかがいした。

「多くの方面から指摘されていますが、BCPを確実に実行すること。最低でも2~3日間は耐えられるような備蓄を確保しておいてください」

台風や大雨は毎年のようにあるし、いつ南海トラフ地震に襲われるかわからない。そのような災害を想定して、電気がなくなったら、水がなくなったら、トイレが使えなくなったらどうするのかということを対策しておく必要がある。

救援隊も助けには来るだろうが、直後は難しい状況が予想される。そのために2~3日は生活を維持できる備蓄が求められるのである。自分たちだけで生き延びる対策を立てていなければならない。

「救援隊やボランティアが来たら何をお願いするべきか、どう支援をお願いしたらいいか、これを『受援』という表現をしていますが、この受援も考えていただきたい」と稲葉氏は強調する。

「受援」とは援助や支援を受けること。災害発生直後は外から来た人に何を頼んだらいいか整理さえつかないかもしれないが、何が問題で何に困っているかを具体的に説明できないと支援する側も動くことができない。これもBCPの中で検討するべき項目である。

日本に求められる支援のあり方

大規模災害は避けられないものであり、その救助のあり方もさまざまな形態を見せている。それを象徴する1つが「ARROWS」のアプローチだ。すでに民間団体が救助活動を展開する時代になっているのである。

「公的な支援だけではもはや十分ではありません。国に任せっきりではなく、民間でできることは民間で、自分たちでやらなければならない時代です」と稲葉氏は訴える。

国も「自助・共助・公助」という言葉を口にするようになっている。日本では国がしっかりしていたため、災害対策を自分事と考えない人が多かった。しかし、これからは自分で(自助)あるいは自分たちで(共助)、いかに対処できるかを考えなければならない。もはや国(公助)に頼りきっていい時代ではなくなった。この概念を変えなければならない。2024年4月の台湾大地震における復旧スピードの速さは、自治体と民間が一体となった官民連携が構築されているからとの報道もある。

「国や自治体でなければできないことも多くありますが、それ以外に民間でできることも多くあります。現場の職員たちは自分たちがすでに被災者です。可能な手段を駆使して、『ARROWS』はこれからも救援活動を展開していきます」と稲葉氏は語った。

連絡先

空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”
URL:https://arrows.peace-winds.org/