介護最前線Front line of Nursing
社会福祉法人 友愛十字会
施設長 鈴木 健太氏
「見守りケアシステムМ-2」で
介護労力の軽減を図る。
──ベッドそのものが介護ロボット──
特別養護老人ホーム 友愛荘
(社会福祉法人友愛十字会)
社会福祉法人友愛十字会(東京都世田谷区)は、2023年8月、特養「砧ホーム」における生産性向上に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)が国に評価され、首相官邸にて「介護職員の働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣表彰」を受けた。当時の施設長で、一連の取り組みを指揮したのが鈴木健太氏だ。同施設は今、それを超える介護労力軽減モデルの構築に取り組んでいる。その舞台が、4年前に町田市に新設された特養「友愛荘」だ。友愛荘にはどんな介護ロボットが導入されているのか、フロアのICT化はどこまで進んでいるのだろか──東京都高齢者福祉施設協議会の常任委員で、デジタル推進委員長も務める鈴木氏自身に、現場を案内していただいた。
全ベッドがセンサーを内蔵
安全を見守り介護負担を軽減する
友愛荘(社会福祉法人友愛十字会)は、令和になってから建築され営業を開始した新時代の特養である。令和3(2021)年6月、町田市図師町にあった特養(82床)を移転し、現在の場所に新築し再スタートを切った。
3階建て、1階にショートステイ向け1ユニットと個室(10床+12床=24床)、2階は個室(12床×4=48床)、3階は多床室(20床×2=40床)の構成。都市近郊ならどこでも見受ける中規模の特養だ。その外見以上に新しいのが、全110床に、センサーを搭載した「介護ロボット/見守りケアシステムМ-2」(フランスベッド)を導入していることだ。
友愛荘の移転・新築後、間もなくしてマネジメント全般を委ねられたのが、特養「砧ホ―ム」の劇的な業務改善が国の目にとまり、内閣総理大臣表彰の栄誉に輝いた鈴木健太施設長(当時)であった。世田谷区の閑静な住宅街にある砧ホーム(1992年開業)は、慢性的な人材不足から経営難に陥る従来型特養の典型だったという。
「2010年から20年にかけて常勤職員がみるみる減少。結果、少人数での激務を強いられるが、職員は休暇がとれない。加えて建物の老朽化が進み、介護サービスの質がどんどん低下。非常に危機的な状況を迎えていました」
2017年に施設長に就任した鈴木さんは、東京都の補助金制度などを活用して介護ロボットや福祉器具を積極的に導入。Wi-Fi環境を整備し、ICTを活用した見守り支援機器を思い切って導入するなど、生産性向上に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)化を強力に推進していった。結果、1日15人必要だったシフトが10人で稼働できるようになり、夜間でも介護職員が安心して働けるようになり、離職率も短期間に大幅に改善された。
砧ホームで実証したICT、生産性向上の手腕を、今度は友愛荘に──法人の意図は明確だ。いまや介護業界を代表するDXの水先案内人の一人となった鈴木施設長に、新たな活躍のステージが与えられたのである。
見守りケアシステムM-2 リモコン
ナースコール経由だから
失報もなく使い勝手も良い
ベッド本体が介護ロボットで、療養者の状態と安全を見守るとともに介護職員の介護負担を軽減する──これが「見守りケアシステムМ-2」のコンセプトである。介護ロボットと言っても、利用者のベッド上の動きを感知する4つのセンサーはフレームに内蔵されており、外見は普通のベッド。ナースコール+Wi-Fi経由でリアルタイムに利用者の状態(動き出し、起き上がり、端坐位、離床)を通知する仕組みだ。介護職員は利用者の状況を、介護職員室に設置されたパソコンもしくは各人のスマホで確認できる。いちいちベッドを見回らなくても、利用者の微小な動きや、転落・転倒につながるリスク予測ができるのだ。
1日のかなりの時間を占める職員間の情報共有は、全員加入のアプリLINE WORKSを活用。LINEに似た操作感で、チャット、音声・ビデオ通話、掲示板、カレンダー、タスク管理、アドレス帳、ファイル管理などの機能がある。伝達事項の共有はもちろんのこと、職員間のスケジュール調整、会議の議事録もアップすれはみんなで見られるので非常に重宝しているという。
「ICTの目玉は何といっても見守りケアシステムです。開業時から全館のWi-Fi設備と同時に稼働しました。見守り機器には大きく分けて、ナースコール経由、カメラセンサー型、バイタルセンサー型の3種類ありますが、ナースコール対応型は失報がほとんどなく、何より使い勝手がいい」と、看護師でもある鈴木施設長は推奨する。
ちょっとした便利さが
職員の労力軽減を呼ぶ
ここで、現場の職員の声を紹介しよう。最初からこのベッドありきでスタートしたので、導入前との比較はできないが、よく耳にする感想は次のようなもの。
●Aさんは起き上がり時、Bさんは端坐位になったときとか、利用者さんごとに通知モードを設定します。実際にアラームが鳴って部屋に駆け付けると、本当にスマホの画面(イラスト)そのままの姿勢なんですよ。これにはびっくりしました。
●これまでのセンサーは後付けで、踏んだら警告音が鳴るものだった。コードが露出していて見た目もよくなかった。寝返りをしただけでナースコールが何度も鳴ってしまい、異常がないとわかっていても職員はいかねばならなかった。そこが改善されただけでも全然違いますよ。
●必ずしも利用者さん全員の通知モードを設定することはないんです。その人の症状や日々の行動パターンに合わせ、通知モードを細かく設定すればいい。そうすることで、本当に駆け付けが必要なナースコールか否かを見分けることができます。特に人が足りない夜勤では助かります。
●リモコン(液晶手元コントローラ)操作法が簡単で、機械に弱い人にはありがたい。イエスとノーしかないので、1回の説明を聞けばだいたい覚えてしまう。取り扱い説明書はいりません。
●体重測定機能があります。1日の平均体重が測定され、なおかつ1ヶ月の体重変化をグラフ化して見ることができるようになった。
●行動履歴の分析ができ、そこからある程度、利用者さんの転落・転倒リスクを予測することができる。
●これまでの見守り機器は、介助時や食事の際に一時停止をすると、戻ったときに再度設定が必要で、それを忘れてしまうことが多かった。今度のシステムは利用者さんがベッドに戻ると自動で再開します。この機能はとても便利ですね。
施設内のICT環境
介護における生産性向上は
サービスの質の向上につながる
鈴木さんは現場で施設長を務めるほか、法人本部総務部において重要な役割を担っている。砧ホームにおける業務改善が高く評価されてのことだろう。人材確保・育成推進室副施設長、そして介護生産性向上推進室長の肩書を持つ。また、東京都高齢者福祉施設協議会においては常任委員を務め、デジタル推進委員長、看護職員研修委員長の重責を担っている。こうした介護施設運営に関する多角的な視点を持てるようになるまでには、いくつもの試行錯誤を経てきた。
電動ベッドに関しては、東京都の補助金を活用して低床ベッド3台を入れたのが最初だった。これによりベッドからの転落事故が見事になくなった。意を強くして、次に現在運用中の見守りケアシステムの原型となるМ-1を10台導入。他にもカメラ型の見守り機器、職員の腰の負担を軽減させるマッスルスーツ、入浴介助用の介護ロボットなど、どん欲にトライしてきた。
「特養なので入所者の7~8割は認知症を発症しており、どうしてもベッド周りの転落や歩行中の転倒事故を避けて通れない。これらの問題はただ単に人材不足によるものかというと、そうでもありません。当時は介護ロボットやICTに関する知識はほとんど持ち合わせていなかったのですが、導入する度に確実に事故が減ることに力をもらいました。介護における生産性向上は、職員の負担軽減だけを目的とするのではなく、サービスの質の向上に向けた介護の価値を高める活動であるというのが私のモットーです」
こうした鈴木施設長の姿勢は、施設経営の数字にも如実に表れている。特養・友愛荘の昨年の離職率(退職届出率)は2.5%(特養平均は2桁台)、稼働率は96%(同92%)を記録した。さらなる生産性の向上を目指し、目下、脈拍、呼吸数などが表示できる進化した見守りケアシステムМ-2Rの導入試験を進めているところだ。
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連絡先
社会福祉法人 友愛十字会
特別養護老人ホーム 友愛荘
〒194-0031
東京都町田市南大谷3-41-1
TEL/042-785-5626