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ふれあいの輪

介護最前線Front line of Nursing

伊東大介氏

慶應義塾大学医学部内科学教室(神経)
特任教授
慶應義塾大学病院・メモリーセンター長 

伊東大介

アルツハイマー病かどうか、
8割強の確率で容易に予測できる
「3つの質問」を特定。
~慶應義塾大学病院メモリーセンター~

認知症を巡っては、近年、明るいニュースが相次いでいる。アルツハイマー病の進行を抑制する新薬の実用化に続き、その前段階でアルツハイマーの疑いを簡便に検出する手法が開発されたのだ。「物忘れ外来」での豊富な問診経験をもとに、病気の検出手法として簡単な「3つの質問」を特定したのが伊東大介特任教授(神経内科)率いる慶應義塾大学病院メモリーセンターチーム。認知症の早期発見につながる質問はいかにして編み出されたのだろうか。

心理テストやMRI検査では
アルツハイマー病は検出できない

 ──認知症においてはアルツハイマー病の進行を抑制する新薬の実用化が大きな話題になっていますが、一般家庭レベルでは、「認知症を発症したのか」「単なる高齢化なのか」見分けがつかないケースが多々あります。

 通常、臨床の場面で、認知症かどうかを一番先に判断するのに用いるのは「心理テスト」です。患者さんの記憶力、計算する力、描いてもらった絵などから病気か否かを判断するもの。この心理テストの代表的なものに、今日、病院やクリニックで簡易的に行われることの多い「長谷川式認知症スケール(例えば時計・メガネ・ハサミなどを目の前に並べ、一度しまい、時間を置いて確認する)」があります。長谷川式は10~15分もあればできますが、詳細に心理検査を行うには1時間から1時間半もかかるため、患者さんにかなりの負担をかけることになります。あとは「MRI」で、脳内の写真を撮ります。しかしこれらは脳血管性認知症などを診断する手法ではありますが、ここからアルツハイマー症の診断を下すことは基本的にできません。

 ひと口に認知症といってもいろんな病気があります。メインの症状は物忘れですが、認知症になった原因を探っていくと脳梗塞だったり、アルコール中毒だったり、脳に入ったばい菌から発症する人もいる。中でも一番多いのがアルツハイマー病(原因物質の1つであるアミロイドベータというタンパク質が脳にたまって起きる)です。

 実は、通常の臨床では、アルツハイマー病を正確に診断する方法は2023年まで実在しませんでした。心理テストとMRIは一般の病院でもできましたが、MRIは20~30分かかりますし費用も安くはない。1時間以上かかる心理テストはかつてのIQテストのようなもので、精神的な侵襲性を否定することはできません。患者さんによっては、途中で機嫌を損ねて辞めてしまう人もいます。このように認知症の検査は大変であるうえに、前述したようにアルツハイマー病の正確な診断には結びつかないものでした。

高齢者には負担が大きく
しかも高額な認知症検査

 ──アルツハイマー病の進行を抑える新薬が実用化されましたが、きちんとした検査を受けないと処方されないと聞きました。
そもそも認知症の検査とはどんなものなのですか?

 臨床で正確な診断をするためには次のステップとして、2023年から保険適用になった「アミロイドPET検査」、もしくは「腰椎穿刺(腰の脊髄腔に針を刺して髄液を採取する)」を行います。この2つの方法によりアルツハイマー病かどうかほぼ9割方判明しますが、一長一短があります。アミロイドPETは保険が利くようになったものの、保険が3割負担の人でも7万円の自己負担となります。また腰椎穿刺は背中から水を取るので侵襲性が高い(痛い)ため、高齢者にとってはかなりの身体的負担となります。

 ご存じのようにアルツハイマー病患者さんにとっては、ここへきて明るいニュースが続いています。2つの新薬「レケンビ(一般名レカネマブ)」と「ケサンラ(同ドナネマブ)」の実用化です。いずれも、脳に蓄積して神経細胞を壊すタンパク質アミロイドべータを除去して進行抑制を担う抗アミロイド抗体薬ですが、この薬を投与するにはどちらかの検査を行うことが義務づけられています。いずれにしても、かなりのステップを経なければならないし、そもそも最初に心理テストやMRIを実施するかどうかの判断もなかなか難しいわけです。もっと簡便に、正確性にアルツハイマー病であることが見出せる方法がないだろうかと、認知症の治療に携わる専門医はずっと考えてきました。

アミロイドPET検査結果と
約8割一致する質問があった

 ──慶應義塾大学医学部が発表したのは、アルツハイマー病を高確率で検出できるという「3つの質問」です。しかも内容はごく普通の会話で、家族や介護職員がしてもおかしくありません。どのような経緯でこの質問を特定されたのですか。

 慶應義塾大学病院では2008年から「物忘れ外来」を開設していて、そこで たくさんのアルツハイマー病の疑いのある患者さんに接してきました。そうした中で、問診時に投げかける質問の中に有効な質問があることを、経験を通して見出したのです。どういうことかというと、その質問に対する患者さんの答え方に、その後に実施するアミロイドPET検査の診断結果との一致率が高いものがあることに着目しました。

 その3つの質問とは。「①現在、困っていることはありますか?」「②現在、楽しみはありますか?」「③最近(3ヵ月以内)、気になるニュースを挙げてください」というもの。もちろん、患者さんの年齢や症状によりいろんな質問をしてきましたが、その中で、患者さんにいちばん負担がなく、不愉快にさせることなく、通常の話の中に盛り込めるものがこの3つでした。そして面白いことに、その回答と後に実施したアミロイドPET検査との一致率を見ると8割を超えていました。この質問の回答が陽性だった人にアミロイドPET検査を行うと、8割以上の人がアミロイドべータもたまっており、アルツハイマー病を効率的にスクリーニングできる可能性を示していました。

 例えば質問①は病識(自分が病気にかかっているかどうかの意識)を問うもの。アルツハイマー病の人は、本当は物忘れで困っているのですが、医師の前では「困っている」とは言いません。物忘れがあるんじゃないですかと聞くと、ほとんどの人が「あるけど、年のせい」と答えます。これは“とりつくろい”といってアルツハイマー病の一つの特徴です。また質問②の「楽しみはありますか」についても、もう何年もやっていないゴルフや趣味の手芸と答えます。実は、認知症でいちばん鑑別が必要なのはうつなんです。老年期を迎えてうつ傾向になり、それが認知症に見えてしまう。うつ病性仮性認知症といい、これがいちばん見分けが難しい。

しかし、アルツハイマー病以外の認知症の人は 具体的な楽しみを言いません。認知症で2番目に多いレビー小体型の場合はうつ傾向が強いので、質問②には「楽しみはない」と答えます。

 質問③は、いわゆる記憶力に関するもので、アルツハイマー病の人は不適正な回答しか出てきません。全体を見ると、困ったことはない/楽しみは結構具体的にいう/けれど記憶が出てこない──この組み合わせの人にPET検査をすると8割以上アミロイドがたまっているという結果が出ました。重ねて言いますが、これは認知症を識別する検査ではなく、アルツハイマー病の病理を見る検査になります。もちろん結果が100パーセント正しいということではありません。

医療関係者に限らず
家族や施設職員にもできる

 ──質問内容を見ると、あまりに平易な文言であることに逆に驚かされます。介護する家族や施設職員が質問してもいいのですか。また、質問をするときに注意することはありますか。

 この3つの質問は、高齢者に対してごく普通に発せられる質問であり、医師に限らず、ご家族や介護施設の職員が行ったとしても問題ありません。日常の何気ない会話の中に違和感なく盛り込めるところに、この質問セットのもう一つの特色があります。認知症疑いの場面でよく聞く「昨日の晩ごはんのおかずは何?」とは全然違いますね。誰もが普通に聞ける内容ですし、聞かれた方も不愉快な思いはしません。したがつて医療機関のみならず、介護施設や家庭でも可能なアルツハイマー病の強力な第一選択スクリーニングとして役立つ可能性を秘めています。

 その際、質問の文言はこの聞き方をそのまま使ってください。私たちは言葉の選択まで細かく研究していますから。もちろん、他の質問が加わったとしても、世間話の間にこの3つが入っていたとしてもかまいません。なお、回答の内容に関係なく、問診時に医師の質問に直接答えようとせず、隣にいる家族など同伴者を振り返って手助けを求める動き(振り返り動作)が見られるときも、アルツハイマー病のリスクが高いという結果が出ています。最終的な診断はもちろん医学的な検査が必要ですが、最初の段階でのスクリーニングにこの3つの質問を役立ててもらえればと思います。

連絡先

慶應義塾大学医学部内科学教室(神経)
慶應義塾大学病院メモリーセンター
〒160-8582
東京都新宿区信濃町35
URL:https://keio-memory-clinic.com/