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公益財団法人INCLUSION JAPAN
代表理事 河原 至誓氏
楽しみながら福祉を学ぶ「福祉留学」
“福祉リテラシー”を育てる新たな体験型プログラム
「福祉というパスポートを持って、日本中を旅しよう」――。このようなキャッチフレーズで展開されているのが「福祉留学」である。全国各地の特色ある福祉施設と提携し、現場を体験しながら学ぶ体験型プログラムで、学生だけはなく、医療、IT、飲食、宿泊など多様な業界の人々が参加している。
福祉留学は“福祉を学ぶ場”であると同時に、人や地域、社会との関わり方を見つめ直す場でもある。代表理事の河原至誓氏は、「福祉留学を通じて、社会全体の福祉リテラシーを高めたい」と語る。
福祉というパスポートを持って旅をする
福祉の現場ではICT化やDX化が進み、設備や機器が導入されている。しかし、どれだけ技術が発展しても、利用者に寄り添い支えるのは人であることに変わりはない。「だからこそ、福祉に関わる人材の質を高め、視野を広げることが必要だと考えました。福祉は、最後は人にかかっています」と河原氏は語る。
全国には地域に根差し、独自の取り組みを行う魅力的な福祉施設が数多く存在する。地域住民を巻き込み、まちづくりにまで関わる施設も少なくない。しかし、そうした取り組みは地域に埋もれがちで、外からは見えにくいのが現状である。
福祉留学は、そうした“面白い福祉”を実際に見て体験できる場として始まった国内インターンシップ制度である。福祉業界を目指す学生だけでなく、「福祉を知らない人」が体験できる点が特徴だ。現場を知ることで初めて見えてくる課題があり、それは福祉業界だけではなく、社会全体に関わる問題でもある。
構想は2020年ごろからあったが、コロナ禍と重なってしまい、具体化したのはこの2年ほど。現在、留学先は全国に広がりつつあり、参加した学生が地域に移住したり、留学先への就職を希望したりするケースも出ている。





地域の福祉には“面白さ”がある
河原氏は、「地方の福祉には、都会にはない面白さがある」と語る。例としてハンバーガーを挙げる。「全国どこでも同じ品質を提供するチェーン店もありますが、佐世保バーガーや淡路島バーガーのように地域ならではの魅力を持つ店もあります。福祉もそれと似ています」(河原氏)。
地域企業と連携してイベントを開いたり、交流の場をつくったり、福祉の枠を超えた活動を行う施設も少なくない。福祉留学では、そうした“地域密着型”の施設を実際に訪れることができる。
地方では、福祉施設の役割が都会とは大きく異なる。都会では介護、障害福祉、買い物支援など専門の事業者が存在するが地方では人口減少や高齢化によりサービスが不足し、誰かが担わなければ地域での生活が成り立たない。
例えば、高齢者が買い物に行けない“買い物難民”の問題。都市部では民間サービスや移動販売があるが、過疎地域では難しい。そのため、地域の介護施設が送迎や買い物支援を担うケースが増えている。
さらに、高齢者施設が障害福祉にも取り組んだり、地域住民の交流拠点になったりと、役割は広がっていく。地域イベントを主催、空き家活用、住民同士のつながりづくりなど福祉施設が地域のインフラのような存在になっている。単なる介護サービスの提供ではなく、「地域で暮らし続けるための仕組み」を支える役割を担っているのである。
河原氏は、「現場を見ると、“福祉は介護だけではない”と感じてもらえる」と話す。福祉留学は、福祉を学ぶだけではなく、地域の暮らしや人とのつながり、地域課題の解決方法まで体感できる場となっている。
福祉を学ぶのは、福祉職だけではない
河原氏は「福祉を学ぶ必要があるのは、福祉職だけではない」と語る。その考えを広げるきっかけとなったのが、経済産業省の「オープンケアチャレンジ」である。介護や福祉を閉ざされた専門分野としてではなく、社会全体に開かれたものとして捉え直す取り組みだ。福祉留学はこの事業に採択され、他業種の人たちにも福祉現場を体験してもらう活動を本格化させた。
「最終的には福祉のリテラシーを社会全体で高めたい」と河原氏は意気込む。高齢者や障害のある人、病気を抱える人と自然に関わる社会をつくるためには、福祉職以外の人にも現場を知ってもらう必要がある。
例えば、バリアフリーを掲げる店舗でも、実際に車椅子の人と行ってみると、“微妙に”使いづらいことがある。入口の段差、トイレの使いにくさ、店内の導線など。見た目だけでは分からない不便さは多い。介護現場を知るスタッフであれば、「車椅子のまま食事されますか、それとも椅子に移りますか」と自然に声を掛けられるだろう。こうした“ちょっとした配慮”が本当のバリアフリーにつながる。
宿泊業でも同様で、車椅子からベッドへの移乗を理解しているだけで利用者の安心感は大きく変わる。住宅メーカーや建築関係者が介護現場を体験することで、実際に暮らす人の視点に立った住まいづくりにもつながる。
福祉留学には医療、IT、飲食、宿泊、福祉用具など、多様な業種の人が参加しており、介護現場を体験することで「自分の仕事が社会とどうつながっているのか」を考えるきっかけにもなっている。




実際に人生が変わった人たち
福祉留学には、全国各地からさまざまな人たちが参加している。印象的な事例の一つが、北海道の「そらぷちキッズキャンプ」である。難病を抱える子どもたちが安心してキャンプ体験ができる施設で、医療従事者が常駐し感染対策も徹底されている。
看護師志望の学生がこの施設を訪れ、現場を体験したことで、「自分もここで働きたい」と強く感じるようになった。
しかし施設側は新卒を育てる余裕がなく、これまでは経験者を中心に受け入れることができた。現在では「この学生を育てるために福祉留学のネットワークを活用できないか」という相談も寄せられている。
実際に地域へ移住したケースもある。留学先の理念や働き方に共感し、東京から長崎へ移住して福祉の現場に就職した学生もいる。「就職する前に法人の考え方や現場を知ることができるのは大きい」と河原氏は語る。
医学生の参加もある。諸島出身の医学生は「将来、島に診療所をつくりたい」という思いを持ちながら、地域医療や福祉の形が分からなず、福祉留学を通じて全国の先進的な施設や地域医療の現場を見て回っている。
異業種から福祉を目指す人もいる。IT企業で働いていた女性は「社会福祉士になりたい」と考え、現在資格取得に向けて勉強を続けている。福祉留学を通じて医療系・福祉系双方の施設を体験し、「自分がどんな支援をしたいのか」を模索している。
福祉をみんなのものにしたい
福祉留学は現在、全国12か所の施設を留学先として展開している。河原氏は「まだまだこれからです。東北ならここ、中国地方ならここ、沖縄ならここといったように各地域に特色ある留学先を増やしたい」と語る。
今後が、高齢者福祉、障害福祉、医療的ケアなど、分野ごとに全国へ留学先を広げていくことを目標としている。単に数を増やすのではなく、「地域の魅力」と「施設の魅力」の両方を備えた場所を選び、福祉の現場だけでなく、その土地の暮らしや文化、人とのつながりまで感じられることを重視している。
「旅行サイトのように、“この地域に行ってみたい”“この取り組みを見てみたい”と探せるようになれば面白いですよね」と河原氏は笑顔を見せる。
そのために協力を呼び掛けているのが「会員法人制度」である。趣旨に賛同する法人が会員となり、自社職員を福祉留学へ送り出せる仕組みだ。会員法人は職員を留学へ参加させることができ、見学ツアーなどにも参加できる。
福祉は高齢者や障害者、病気を抱える人だけのものではなく、誰もが関わる可能性がある。「学び合う福祉」がこれからますます重要になる。「だからこそ、福祉職だけではなく社会全体が福祉を学び、理解していく必要があるのです」と河原氏は呼び掛けるのである。


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代表理事 河原至誓
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