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ふれあいの輪は、新しいホームケア・在宅介護を目指して、
(公財)フランスベッド・ホームケア財団によって
運営されています。

ふれあいの輪

知っとく!Shittoku

礒部 祐亮氏

厚生労働省老健局
認知症施策・地域介護推進課

礒部 祐亮係長

認知症の人を含む国民一人ひとりが
新しい認知症観に立って行動する
──認知症施策推進基本計画──

 令和5(2023)年6月、認知症の人が増加している現状等に鑑みて、共生社会の実現を推進するため「認知症基本法」(正式名称は「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」)が成立し、翌年1月から施行された。がんがそうであったように、日本の認知症施策はこの基本法を一つの転換点として新たな次元に入ったという。認知症に対する人々の理解や認知症の人への対応はどう変わったのか。また、自治体レベルでは現在、どんな具体策が推進されているのだろうか。厚生労働省老健局、認知症施策・地域介護推進課、礒部祐亮係長に現況を聞いた。

厚生労働省

厚生労働省

認知症になってからもできる・やれる
「新しい認知症観」に立って

──急速な高齢化の進展に伴い、わが国の認知症の人は増加しています。家族や友人、職場の同僚や顧客など、誰もが認知症になり得る状況に至ったと実感します。まずは現状を教えてください。

 令和4年の調査によれば、認知症の高齢者数は約443万人、軽度認知障害(MCI)の高齢者数は約 559 万人と推計されています。その合計は1,000万人を超え、高齢者の約3.6人に1人が認知症またはその予備群といえる状況にあります。もはや認知症は決して特別な症状ではないですし、自分がなったとしても不思議ではないと考える時代になりました。この推計で得られた有病率が今後も一定と仮定すると、令和 22(2040)年にはその人数が約 1,200 万人 (認知症約584万人、軽度認知障害約613万人)となり、高齢者の約3.3人 に1人が認知症または軽度認知障害になると見込まれます。こうしたことを鑑みると、国民一人ひとりが認知症を自分のことと理解し、認知症であることをご家族も含めて周囲に伝えていくことや、自分らしい暮らしを続けていくためにどうしたらいいのかを真剣に考えていく必要があります。「認知症施策推進基本計画」はこうした背景等を踏まえ、「認知症基本法」に基づき令和6年12月に策定されました。

──国の認知症施策といえば、その方向性を定めた「認知症施策推進5か年計画」(オレンジプラン)、それを継承した「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)、「認知症施策推進大綱」が策定されていますが、現在進行中の基本計画の認知度は今ひとつかと。

 基本計画は策定されてから約1年ということもあり、これからさらに認知度や理解を深めていかなければいけないと考えていますが、これまでの計画等とは異なり、基本計画は、認知症の人を単に「支える対象」としてではなく、1人の尊厳のある個人として捉え、認知症の人がその個性と能力を十分発揮し、経験や工夫をいかしながら、共に支え合って生きることができるようにすることが重要であるという視点を持つことが大変重要で基本計画上でも示されています。そのため、認知症の人と家族等が、行政や地域の多様な主体と共に、認知症施策の立案から実施、評価に至るまでのプロセスに参画することを通じて、認知症の人が住み慣れた地域で自分らしく暮らせるようにするための施策を推進することとしています。

 認知症と聞くと、どうしても、「何も分からなくなってしまう」「何もできなくなってしまう」といった考え方が今も根強く残っている印象があり、認知症になることを受け入れるのがなかなか難しい状況があります。それゆえ、認知症の人が社会的に孤立してしまったり、ご本人の意思が十分に尊重されなかったりという状況が見られます。高齢者の3~4人に1人が認知症になろうかという今日、私たちはこうした古い認知症観を改めなければなりません。

 基本計画に示された“新しい認知症観”とはすなわち、認知症になったら何もできなくなるのではなく、認知症になってからも一人ひとりが個人としてできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間などとつながりながら、希望をもって自分らしく暮らし続けることができるという考え方です。認知症の人を含めた国民一人ひとりがこうした新しい認知症観に立ち、自らの意思によって日常生活および社会生活を営むことができる共生社会を創り上げていく必要があります。

山形県、鳥取県など
地方で見られる成果事例

──認知症施策・地域介護推進課の役割は、国が策定した基本計画を踏まえ、地方自治体において努力義務となっている計画策定の支援等を実施することかと思います。基本計画策定から約1年経ちますが、具体的にどんな成果事例があがっていますか。

 当課では、各都道府県や市区町村での計画策定の準備にかかる経費を補助することや、計画策定のための手引きの作成・周知、自治体担当者向けの計画策定に関するセミナー・座談会の開催等を通じて支援していますが、具体的にどういう施策を実施していくかはまさに自治体で判断し計画していきます。認知症施策は地域の実情に応じて実施されることが肝となっています。そんな中から、いくつか先進事例を紹介しましょう。

 例えば山形県では、計画策定の際に認知症の人の意見をしっかりと聴いたことから、やまがた共生オレンジ大使(地域版希望大使)の任命につながり、認知症の人の声を県民に広める普及啓発につながっています。なお、希望大使の役割は、認知症の人が自ら発信することで、認知症に関する知識及び認知症の人に関する理解を地域に深めることであり、具体的には、認知症サポーター養成講座の講師であるキャラバン・メイトへの協力や、都道府県が行う認知症の普及啓発活動への参加・協力等に取り組んでいます。

 また鳥取市では、認知症の人やその家族、介護保険サービス事業所、医療機関などさまざまなメンバーからなる「鳥取市認知症施策推進計画策定ワーキンググループ」を立ち上げ、全6回の会議を通して多様な意見をもとに計画を策定しました。香川県では、今後計画策定予定ではあるものの、新しい認知症観をしっかり学んでいくためのセミナーを開催し、これには県知事を含めた幹部職員も参加しています。その他、高知県や長野県などもそうですが、これまで積み重ねてきた認知症施策のあるところが進んでいるように感じます。

本人ミーティング、ピアサポート等
認知症の人本人による活動や認知症の人やその家族の手助けとなる活動

──基本法成立からこれまでの取組(カコミ図版参照)の⑶相談体制の整備等、認知症の人の社会参加の機会の確保等のところで、地域の認知症施策推進の要として、地域支援推進員の専任配置及び認知症カフェを中心とした地域の充実・拡充が掲げられています。ここにある「本人ミーティング」「ピアサポート活動」とは。

 本人ミーティングとは、認知症の人が自らの体験や希望、必要としていることを語り合い、認知症施策の立案や評価に本人視点を反映させるための集まりの場のことであり、基本計画の重要な取り組みの一つで、令和6年度は全国482市町村で実施されました。また、今後の生活の見通しなどに不安を抱えている認知症の人に対し、精神的な負担の軽減と認知症の人の社会参加の促進を図るため、認知症当事者による相談支援であるピアサポート活動も167市町村で行われました。今後、こうした本人による活動を全国で広めていくよう、国としてもしっかりと支援していきたいと考えています。

 また、認知症に対する正しい知識と理解を持ち、地域で認知症の人やその家族に対してできる範囲で手助けする認知症サポーターに至っては、直近の集計(令和7年12月末時点)で1,682万人を超えました。認知症サポーター等が支援チームを作り、認知症の人本人が参画し、その意向を支援チームの活動に反映する機会を設け、地域ごとに、認知症の人やその家族を、その支援ニーズに合った具体的な支援につなげる仕組みであるチームオレンジは843市町村(令和6年度)が設置しています。こうした状況を踏まえると、社会の中で認知症の人への理解や認知症への関心が高まってきていると感じています。

──取組の2について、生活におけるバリアフリーの推進とありますが。

 厚生労働省においては、先述のチームオレンジの取組であったり、認知症の人への接遇方法等を業種ごとにまとめた「認知症バリアフリー社会実現のための手引き」を作成し、周知してきました。なお、認知症施策は生活の多方面に及ぶだけに、厚生労働省だけでなく他の省庁とも連携して進めています。例えば、ハード面に関しては国土交通省において、認知症の人を含めたすべての人が利用しやすくなるよう、公共交通機関や建築物等のバリアフリー化が推進されてもいます。

厚生労働省

今後の展望

──今後の展望等についてお聞かせください。

 厚生労働省ではこれまで、オレンジプラン、新オレンジプラン、認知症施策推進大綱に沿って施策を推進し、自治体との連携も進めてきましたが、振り返るに、認知症の人と一緒になって施策を進めていくという点では十分ではなかったのではないかと思います。繰り返しになりますが、現行の基本計画はこの点がこれまでとは異なります。認知症の人も計画策定や施策の検討などに参画して、一緒に対話しながら進めていく。そこのところを医療・介護現場の専門職の方にもしっかり理解していただきたく思います。 そういう意味で、医療・介護職員に対する研修の質の向上も考えていかねばならないとも考えています。認知症の人が何をやりたいのか、本人視点をしっかりイメージしながらケアをしていただくとか、社会参加を後押ししてくれる専門職が増えていってほしいと思います。

 認知症施策は、基本法ができ、基本計画ができて、これからまさに認知症の人と共に施策を前に進めていくという意味で新たな段階に入りました。今後はその考え方を地域へ、そして全国へと広げていくことになります。また、認知症の発症は高齢者のみならず、若い方も一定数いらっしゃいます。40代、早い人は30代で発症される人もいるのが事実ですので、若い世代に向けての認知症の理解の促進、普及・啓発もまた重要な課題だと考えます。

連絡先

厚生労働省 老健局 認知症施策・地域介護推進課
認知症施策推進係 
TEL:03-5253-1111(代表)
MAIL: ninchisyo@mhlw.go.jp