知っとく!Shittoku
厚生労働省/福祉基盤課
福祉人材確保対策室
室長補佐 本間 隆氏
外国人介護人材による
訪問系サービスがついに解禁
施設では存在が当たり前となった外国人介護人材だが、訪問系サービスへの従事については、介護福祉士資格をもつ外国人には認められていたが、技能実習生や特定技能外国人には認められていなかったため、在宅でホームヘルパーとして働く姿を見ることは少なかった。しかしこの4月、「技能実習」や「特定技能」で在留資格を得た外国人介護人材についても、介護事業所等での実務経験1年以上を原則として、一定の条件のもとで訪問系サービスへの従事を認めたのである。これにより、とりわけ深刻とされる訪問介護事業者の人手不足は一息つくのだろうか。改正の概要と趣旨を厚労省に取材した。
特定技能の在留者約4万7000人
国別ではインドネシアが最多
施設における外国人介護人材の活躍ぶりは目覚ましいものがある。そして関係者の評判も良い。日本の高齢者介護に欠かせぬ戦力となり、地域にしっかり根を下ろした外国人たち。まずは、介護の知識・技術を修得するためにどのくらいの人数が来日したのか、現状をみていこう。
日本には現在、主に4種類の在留資格からなる外国人介護人材が在留している。
・「EPA」…2国間(日本-インドネシア・フィリピン・ベトナム)の経済連携強化を目的に、介護福祉士候補者として入国。約3100人(令和7年5月1日時点)。
・「在留資格(介護)」…2017年9月に新設。介護福祉士養成校を卒業、あるいは技能実習生や特定技能外国人として実務経験を経た者が介護福祉士の資格を得て取得できる在留資格。約1万2000人(令和6年12月末時点)。
・「技能実習」…外国人の技能実習生が、日本において企業や個人事業主等の実習実施者と雇用関係を結び、出身国では修得が困難な技能等の修得・習熟・熟達を図る。約2万人(令和6年12月末時点)。
・「特定技能1号」…特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を要する。人手足対応のため2019年より受入れ。年々継続して増加し、直近では約4万7000人と過去最多を記録(令和7年2月末時点)。
国別にみるとインドネシアが最も多く、次いでミャンマー。ベトナム、フィリピン。ネパールの順だ。EPA介護福祉士候補者を受入れている3カ国を含む上位5カ国で9割以上を占めている。
訪問系サービスは1対1が基本
特定技能等にはこれまで許可されていなかった
これだけの人が働いて日本の介護保険制度を下支えしているのに、彼らが働く姿は、特養や介護付き有料老人ホームといった施設で目にすることが多く、在宅でホームヘルパーとしてケアする外国人を見ることは少ない。これまでは、国家資格である介護福祉士の資格を取得した、EPA介護福祉士や在留資格「介護」においては、訪問系サービスの従事を認めていたが、技能実習制度や特定技能制度などにおいては、外国人の訪問系サービスへの従事を認めていなかったからだ。ここでいうところの訪問系サービスとは、介護保険法(平成9年法律第123号)に規定する訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護及び介護予防・日常生活支援総合事業を意味する。
訪問系サービスとは「利用者と介護者が1対1で業務を行うことが基本」であり、適切な指導体制の確保、権利保護、在留管理の観点に十分留意し、利用者へのケアの質を担保しなければならないというのが厚労省の考え方だ。また、外国人介護人材について、単なる日本人の穴埋めとしての労働力ととらえてはいない。それぞれの在留資格の趣旨を踏まえつつ、同程度の技能などを有し、職務内容や責任が同等程度の日本人と同等程度の報酬を得ながらキャリアアップしていく仕組みを考えていた。それゆえ、EPA介護福祉士候補者や、技能実習及び特定技能の在留資格で介護業務に従事する外国人については、訪問系サービスにおける従事を認めてこなかった。
ところが、この5年間で外国人介護人材の受入れ方も大きく変わった。平成29年度から介護職種の技能実習生の受入れを開始し、その後、平成31年度に特定技能制度を創設。施行から一定期間が経過する中で、各在留資格の制度趣旨に対する理解も進んだ。外国人介護人材の受入事業所数も増加し、彼らにまかせられる業務の在り方にも議論の余地が生まれたのである。
実務経験1年以上が原則
5つの遵守事項を履行する
厚労省は2023年7月、「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」を立ち上げ、訪問系サービスへの外国人のかかわり方について関係団体などと議論を重ねてきた。そして今年3月、都道府県知事や政令市長あてに、条件付きながら外国人介護人材の訪問系サービスへの従事を認める通達を出した。その内容は以下のとおりである。
介護職員初任者研修課程等を修了し、介護事業所などでの実務経験が1年以上あることを原則として訪問系サービスへの従事を認める。その場合、受入れ事業所は、利用者・家族へ事前に説明を行うとともに、次の5つの遵守事項を履行できることを条件とする。
●5つの遵守事項
➀訪問介護業務の基本事項に関する研修を行う
受入事業所において、利用者やその家族の生活習慣や利用者個々の状態に配慮したサービス提供を可能とするための研修として、訪問系サービスの基本事項や生活支援技術、日本の生活様式等の内容を含む研修を行う。
②一定期間、責任者などが同行する
訪問開始に際し、先輩職員などが一定期間(本人の経験値や習熟度、訪問先との関係性によって期間は異なる)同行してOJTを行う。
➂外国人介護人材の意向確認、キャリアパスの構築
訪問介護などにおける業務の内容説明を行い、本人の意向を確認しつつ、当人のキャリアアップにつながるキャリアパスを作成する。具体的には、修得すべき技能や目指すべき姿を明確にし、多様な業務経験や資格取得に向けたキャリアアップ計画書を策定する。
④ハラスメント防止のための相談窓口を設置する。
訪問系サービスについては、利用者と介護者が1対1で業務を行うことが基本なので、利用者やその家族から介護職員に対してハラスメントが行われる懸念がある。そこで、ハラスメントの防止や相談体制の構築などによる権利保護を十分に行う。※国が作成した「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」あり。
⑤現場で不測の事態が発生した場合等に対応するためのICT(情報通信技術)の活用を含めた環境整備を行う。
現場で不測の事態が発生した場合、適切な対応ができるようにスマホやタブレット端末、多言語翻訳機などのコミュニケーションアプリを整備する。
本改正は、技能実習は令和7年4月1日より、特定技能は令和7年4月21日より施行された。
訪問系サービスの現場はどう変わる!?
厚労省に聞いてみました
人手不足解消策というより、
外国人介護人材のキャリアアップ
──外国人介護人材に対して訪問系サービスの扉が開かれました。
訪問介護事業所の人手不足や従業員の高齢化への対応という側面ももちろんありますが、それ以上に外国人介護人材のキャリアアップという視点が強く働いて、改正の機運を高めたと言えます。訪問介護事業は、利用者の方々の生活や習慣、居住環境に応じた個々人の要望にその場で応えねばならず、そこには一定程度のスキルが求められます。訪問系サービスにも外国人をという声は、介護施設・訪問事業所の側から上がりました。特に、訪問系サービスが併設されているサ高住や住宅型有料老人ホームなどで提供される訪問介護サービスに外国人の従事を認めてもらえないかという、事業者団体からの要請もありました。
──今回の改正によって、実際にどれくらいの数の外国人介護人材が新たに訪問系サービスに赴くと考えられますか。
現時点で技能実習については約2万人、特定技能1号については約4万7000人の在留者がおり、増加傾向です。EPAについても資格取得者を除くと約2,300人が在留されています。今回の改正を通じて、何人が訪問系に参入するという予測を立てることはできませんが、外国人介護人材が希望すれば訪問系サービスに従事することもできるようになり、多様な業務経験を経て、キャリアップにもつながると考えています。
訪問入浴も対象
──訪問入浴も対象になりますか。
訪問入浴介護においても、今回の改正から外国人介護人材の従事が認められます。しかし訪問入浴はもともと利用者と介護者が1対1で行う業務ではなく、複数人でのサービス提供が必要なサービスです。介護職員初任者研修課程の修了が求められていないことなどを踏まえると、受入れ事業者が適切な指導体制を確保したうえで、職場内で実務に必要な入浴等の研修を受講し、業務に従事してもらうことになります。
──利用者の反応はどうでしょう。高齢者の中には、外国人に来てもらっては困るという人もいるかもしれません。
その点は十分配慮した上での改正としています。訪問事業者は事前に、外国人が訪問する旨を利用者本人やご家族に説明しなければなりません。事業者が外国人本人の意向と利用者の意向をきちんと精査したうえで丁寧にやっていくことになります。
──改正施行から2カ月経過しました。訪問介護現場に何らかの変化が起きていますか。
外国人介護人材が訪問系サービスに従事するためには、事前にその事業所が5つの遵守事項を守れるかどうか、審査が必要になります。希望する事業所は、事前に巡回訪問を実施する機関(公益社団法人国際厚生事業団)に必要な書類(訪問系サービスの要件に係る報告書等)を提出し、承認を得ることから始まります。現時点(令和7年6月17日現在)で、9法人・63名分の要件確認を完了しており、訪問系サービスでの従事が見込まれるところです。今後、本件にかかわる好事例を収集して全国に発信していきたいと思います。
連絡先
〒100-8916 東京都千代田区霞が関1-2-2
厚生労働省 社会・援護局
福祉基盤課 福祉人材確保対策室
外国人介護福祉士支援係