日日- HiBi - Day-to-Day
余白のある暮らし―
書道において「余白」はとても大切だ。墨色
を浮き上がらせる、白い宇宙のようなもの―。
最近、人生6度目の引っ越しをした。
家族が一人減り、長らく思い出と共に空き部
屋を抱えていた。トイレが2つ、二人暮らしに
は広すぎる4LDKだったが、ようやく理想に
心地よくフィットする最適な部屋が見つかった。
夫は、生まれつきのミニマリストだ。元々少
ない荷物が更に減らされてゆく。対照的に―、
膨大な書道用具の山を見上げ、ただただ絶望す
るばかりの私に彼はいった。
「シンプルイズベスト」なかなかの良い笑顔。
収納も以前の半分もない。やるしかない。物
を捨てる作業は人生の棚卸しなのだろう。黙々
と選別する内に、互いの実家の景色がよぎった。
どちらの家も決して物が少ない方ではなかっ
た。彼の実家を手放す際にはプロの手を要した。
この経験が、私たちの背中を大いに押した。
時の移ろいの中で価値観も変化する。いつか、
という可能性を断ちながら真摯に見極めたモノ
たちは、どれもこれもタカラモノばかりだ。
今、新居でこのエッセイを書いている。この
シンプルな暮らしを夫も私もとても気に入って
いる。余白は余裕。大切なものだけが軽やかに
そこに在る。まっ白な宇宙の中で暮らしてる。
書家/石崎 甘雨