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ふれあいの輪

介護保険制度改定のポイントKey points of nursing care insurance system revision

古元 重和氏

厚生労働省 老健局 老人保健課 課長 医学博士

古元 重和氏

6年に一度の重要な介護保険制度改定
柱は「介護と医療の連携」「処遇の改善」

介護はすでに国家的な課題となり、介護保険制度の改定はテレビや新聞でも度々見かけるようにさえなった。介護保険制度は2000年に始まってから3年に1回のペースで改定され令和6年度改定は、2年に1回の診療報酬改定と重なり、6年に一度の同時改定となっている。政府は今回の改定で何を目指し、制度や報酬をどのように変えようとしているのだろうか。厚生労働省老健局老人保健課を訪ね、老人保健課. 古元重和課長にお伺いした。

厚生労働省 老健局 老人保健課 課長
医学博士 古元重和氏

加速する高齢化と労働人口の減少

「2025年問題というのをご存じですか?」と老人保健課. 課長 古元重和氏は問いかける。「2025年は団塊の世代の人達が75歳を超えてくるタイミング。今回は、2025年に向けて介護保険制度を整えていかなければならない、極めて重要な改定となっています」と説明する。

介護関連の収支を見ると、令和4年(2022)年度は高齢者を対象とした施設(介護老人福社施設と介護老人保健施設)の収支が赤字を記録し、極めて危機的な状況に陥っている。他産業との差がますます開き、多くの施設は人手不足と経営難で苦しめられている。

「今回の改定では政府の骨太方針に基づき、改定率+1.59%と大きな数字となっています。これは過去2番目の高さです」と古元氏は強調する。

介護サービスごとの収支差率の比較
(令和4年度決算)

医療と介護の連携の推進

今回の改定の1つ目の柱が「医療と介護の連携の推進」だ。高齢化は着実に進んで2040年にかけて85歳以上の人口が増えていく。

85歳以上の方は、要介護認定を受けているとともに持病も持っている。医療と介護の両方のニーズを持っているということである。この方々を地域でどのように支えていくのかが課題となる。例えば、死亡する場所でも、かつては医療機関が多かったものの、最近では自宅や介護施設で亡くなられる方が増えている。

85歳以上の人口の推移

そこで打ち出されたのが「医療においてはより『生活』に配慮した質の高い医療を、介護においてはより『医療』の視点を含めたケアマネジメントを行うために必要な情報提供の内容や連携の在り方」である。

「これが今回の改定のキーフレーズとなります。医療は医療、介護は介護というような縦割りの制度や体制ではいけません。医療機関は『退院したから後は興味がない』、介護側も『医療機関でどのようなリハビリテーション受けてきたか知らない』というようではいけないのです」(古元氏)。

平時からの連携の義務

高齢者施設と医療機関に「平時からの連携(顔の見える関係)」を整えておくことを義務づけた。

具体的には以下3点を義務づけている。

①入所者の病状が急変した場合等において、医師又は看護職員が相談対応を行う体制を常時確保していること。

②診療の求めがあった場合において、診療を行う体制を常時確保していること。

③入所者の病状の急変が生じた場合等において、当該施設の医師または協力医療機関その他の医療機関の医師が診療を行い、入院を要すると認められた入所者の入院を原則として受け入れる体制を確保していること。

高齢者施設、特に医師が不在の施設では利用者が急変するとすぐに救急車を呼ぼうとする。利用者は地域の救急病院に運ばれるが、救急病院では絶対安静が優先され、高齢者は一週間もすると足腰が弱って立てなくなってしまう。

「このような事態を招かないよう、普段から顔の見える関係を構築し、治療もリハビリテーションも継続できる体制と整えておくことが求められているのです。従来、協力医療機関の役割が明確になっていませんでした。そこで、協力医療機関の役割をはっきりと打ちだし義務付けていることは、大変大きな進歩です」と古元氏は語る。

報酬面での加算

義務づけるだけではなく、両機関の定期的な会議の実施と、利用者の病歴等の情報共有に対して介護報酬で加算(評価)しました。また医療機関が入院を受け入れたり、往診をした場合に診療報酬上の加算が算定できることとしました。「病院側でも患者を受け入れることがインセンティブとなるようにしました。このような医療機関と介護施設、双方を報酬で手当できたのはは同時改定ならではのことです」(古元氏)。

リハビリテーションの連携

リハビリテーションは急性期、回復期、生活期へと流れていく。例えば脳卒中が発生した場合、病院側で急性期リハビリテーションが行われ、引き続き回復期リハビリテーション病棟へと移動する。ここまでが医療保険の対象。その後退院して生活期リハビリテーションとなるが、ここが介護保険の対象である。

このように制度が縦割りになっている背景もあるためか、現場も縦割りとなり、残念ながらそれぞれに興味をもつことなく情報を求めようとしない事業所もある。

しかし、利用者からするとリハビリテーションは一連のもの。このため、退院後のリハビリテーションを提供する際に、入院中に医療機関が作成したリハビリテーション実施計画書等を入手し、内容を把握することを義務付けた。

同時に通リハ、訪リハ事業所の担当者が、医療機関で行われる退院前力ンフアレンスに参加した際の評価(600単位)を新たに設けた。これも義務と報酬の両面で推し進めている形だ。

リハビリテーション・口腔・栄養の
情報共有

最近の傾向として、ミールラウンドのような多職種による情報共有やコミュニケーションが見られるようになっており、この評価を見直している。

リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養が情報を共有化し活用していく場合は、高く評価している。「介護と医療の複合的なニーズに対応していこうという姿勢であり、こうした取組はさらに推進していく必要があります。」(古元氏)。

介護サービス従事者の処遇改善

2つ目の大きな柱が、「介護サービス従事者の処遇改善」である。処遇改善はかねてからの大きな課題であった。全産業の給与平均が36.1万円に対して、介護職員の平均給与が29.3万円と、ここに6.8万円もの差がある。

賃金構造基本統計調査による
介護職員の賃金の推移

事業主の経営努力と政府の予算措置もあって、だいぶ追いついては来たが、その差はまだ大きく、他産業への人材流出が深刻になっている。2022(令和4)年秋、介護関係団体が首相官邸を訪問し、処遇改善を訴えているほどである。

これもあって、前述のように改定率+1.59%と大きな数字を打ち出すことになった。

内訳は介護職員の処遇改善に+0.98%。

その他(介護現場のケアマネ、リハビリ専門職、看護職など)が+0.61%。

「改定率+1.59%を処遇改善に充てて頂きたいという考え方です。報酬のベースアップでは令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%を求めています。賃上げにつなげてくださいということです。そして人材確保を進めていただきたい。これが改定率に含まれる大きなメッセージです」と古元氏は訴える。

処遇の改善のみならず、職場環境も整えて離職を防止し、採用コストを抑え収支を改善し、その分をまた賃金にプラスしていく。このような好循環が期待されているのである。

介護福祉用具の「選択制」

最後に今回の改定で、福祉用具に「選択制」が導入されたので紹介しておきたい。

従来から福祉用具はレンタルとされてきたが、例外的なものを特定福祉販売として位置付けてきた。例えば入浴や排泄用など他の人が使ったものに対する心理的抵抗感のあるもの。長く使うことによって形状が変わってしまうリフト類など。これらの一環として、新たに貸与または販売のどちらかを選べる「選択制」という手段を用意した。

今回は比較的廉価であって利用が長期に及ぶもの4点「固定用スロープ」「歩行器」「単点杖(松葉杖を除く)」「多点杖」が選定された。これらは長期で使用すると月額レンタルより購入した方が経済的と見られるためだ。

「固定用スロープ」は敷居の段差をカバーする小型のものが対象。玄関先に置くような大型な用具は対象外となる。「歩行器」は車輪のついていないものが対象だ。

なお、これらは利用者がいきなり選択するものではなく、医師やリハビリテーション専門職、ケアマネジャー等が協議し、その提案を受けて利用者や家族が判断するというプロセスを必要としている。また、使用後のモニタリング実施時期も明確にされた。