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ふれあいの輪は、新しいホームケア・在宅介護を目指して、
(公財)フランスベッド・ホームケア財団によって
運営されています。

ふれあいの輪

介護最前線Front line of Nursing

神永 美佐子氏

株式会社SOYOKAZE
事業統括本部 部長

神永 美佐子

入浴サービスなし、運動も脇役。
「料理」の可能性を証明したかった

コロナ禍が明けて再び勢いを取り戻したデイサービス。ところが実態は以前と変わらない。いやいや身体を動かす人、ボーっとテレビを見ている人・・・。目的はお風呂と家族のレスパイト(息抜き)にある。そんな中、リハビリや趣味に特化したデイが開発され人気を博している。今回紹介するのは、高齢者の可能性を「料理」で引き出す”料理特化型”のデイサービス。プロが教える、まさしく料理教室のようなデイサービスであった。

なないろクッキングスタジオ自由が丘

カフェではなくデイサービスです

東急東横線自由が丘駅から都立大学駅方向へ歩いて12分。おしゃれなショップが軒を連ねる自由通りが目黒通りと交差し、右折してすぐのところに目指すデイサービス「なないろクッキングスタジオ自由が丘」はあった。

デイサービスといっても、見た目はファッション雑誌御用達のカフェか洋菓子店のよう。大きなガラス張りのウインドウの向こうに見えるのは、フロアのセンターに設置された真っ白で横長の楕円形テーブル。左右10m近くあり、これなら大人30人くらいが周りを囲んで調理できそうだ。

店内は写真の通り、底抜けに明るい。白壁にビタミンカラー(レモン・オレンジ・ライムなど柑橘類に共通する明るくビビッドな色調)で統一。オレンジ色のスカーフを巻きカラフルなエプロンをつけて料理する姿を見れば、誰もが「おしゃれな女性向けの料理教室」と勘違いするだろう。実際、その手のお客さんがあとを断たないという。

ところがここは正真正銘の介護施設、介護会社が運営するデイサービスである。パンフレットには、「プロのシェフが教える 料理教室のようなデイサービス」と明記されている。「業界初! 高齢者の可能性を“料理”で引き出す料理特化型デイサービス」というサブキャッチから、意図するところが伝わってきた。

3時間15分、ひたすら料理してそれを食べる

9時15分、送迎車が到着し高齢者が続々と降りてきた。皆さんすでに打ち解けた様子。この日は男性1人を含む18名(定員20名)が参加。手早くバイタルチェックをすませると、エプロンとスカーフを身につけて壁際のテーブル席に着席。賑やかにおしゃべりをしつつ職員の登場を待った。

「今日皆さんと作るのは、スタミナ満点レシピ(全5品目)です。メインは豚バラ肉と旬野菜の中華炒め。それと鯵のオーロラソース、ズーキーニのたまごあんかけ。スイーツグループはカリーソーセージパンをつくりますよ」。ダイニングテーブルの中に入った職員が、よく通る声で献立とレシピの説明をする。

この間も4~5人のスタッフが、専属シェフ(長いコック帽の女性)の指示のもと、奥まった厨房や冷蔵庫のあるスペースで忙しく立ち働いている。そしてダイニングテーブル上に、慣れた手つきで人数分の食材や調理器具をセットした。10時15分、それぞれの役割に分かれて調理が始まった。

約1時間、調理作業は全員が楕円形のテーブルを取り囲むかたちで進んだ。要所要所でスタッフやシェフがアドバイス。最後に出来上がったものを試食し、それが今日のランチになる。簡単に後片付けをしてから帰宅するまで約3時間15分、これが月曜から金曜まで午前と午後の1日2回(入れ替え制)行われている。その間、入浴はなし。文字通りの“料理特化型デイサービス”なのである。

プロが教える料理教室のような

「日本型のデイサービスの中心はレスパイト型。高齢者を朝から夕方までお預かりして、お風呂に入れごはんを食べてもらい、レクリエーションを提供します。ご本人のためですが、実態はというと、ご家族の日頃の介護負担を軽減するのが主目的になっている。デイサービスの目的は本当にこのままでいいのか。次世代高齢者向けの新サービスを開発しなくては介護の未来がない。これからは質の高さによって、利用する方に選んでいただくようなデイサービスにならないと生き残れない。特化型というものがまだ少なかった2015年、しかも料理特化型というのは介護業界にはありませんでした」

 なないろクッキングスタジオを運営する株式会社SOYOKAZEの神永美佐子部長は言う。同社は1999年にデイサービス事業に着手。デイサービス=お風呂という概念が形成される中、「もう少し多様性があるべきだ」「本人がすすんでやりたいサービスを」と可能性を追求してきた。料理特化型を開始したのは2015年、ちょうどリハビリ特化型のデイが出始めたときだった。

「施設などのイベントでやる料理レクは人気がありました。でも従来の料理レクは、ホットプレートでたこ焼きを作ったりホットケーキを作る程度のものだった。もともと料理はリハビリ効果が高い作業療法の一つで、食材を切ったり、焼いたり、盛り付けて配膳することで五感を刺激し、認知機能の改善につながります」

プロのシェフが教える本格的な料理教室のようなものができたなら、料理特化型は最強のデイとなるかもしれない──発想はやがて確信に変わった。なないろクッキングスタジオ自由が丘店の料理クオリティを担保するのは、外資系ホテルのレストランでシェフを経験した山本奈々さん。安心・安全な旬の食材の仕入れや、オリジナルスイーツレシピの開発なども担当する。高齢者介護にも知識があり、介護福祉士の資格も持っている。

まさに、“料理教室のようなデイサービス”なのである。献立は、和食・洋食はもちろんのこと、イタリアンやフレンチ、中華などさまざまな国や地域料理、また日本の四季に合わせた季節の多彩なお料理や郷土料理を提案している。ちなみに6月のメニューは以下の通りだ。

おばあちゃんの料理、若返ったね

コーディネートされた明るいインテリア空間にいるせいか、はたまた気心の知れた仲間と料理をつくっているせいなのか、ここがデイサービスだということを忘れてしまいそうだ。70~80代の要介護者が現役バリバリの主婦に見えてくる。実際、料理教室やレストランと間違えて入ってくる客も珍しくないそうだ。

対象者は要介護1から5。クルマいすやマヒのある人もいる。もちろんふつうに包丁を使い、火をつかう(原則IHを使用)こともある。でも過剰に神経質になる必要はないという。「もともと皆さんは主婦の大ベテラン。教えることなどあまりないし、油を使うときなどスタッフが逆に注意されます。認知症の人もいらっしゃいます。認知症で台所にずっと立っていないし、料理なんてできっこないと思う方が大半でしたが、積極的に料理活動を行い認知機能の改善につながった例はたくさんあります」(神永さん)

ケガよりも一番注意しているのは転倒。普段いすに座っている人も、料理中は自然に立ち上がったり結構な距離を歩いたりする。移動中ふらつきがないよう見守っている。看護師は常駐しているが、ほとんど医療面での出番はない。さすがは元主婦、切り傷もなければ火傷もないという。

「もともと料理が大好きですが、お料理半分・おしゃべり半分。同世代の仲間たちとよもやま話をするのが楽しみで、通い始めて3年半になります。ウチでも料理はしますよ。ここで料理を習ってから、孫に『おばあちゃんの料理若返ったね』と言われました。それまでは自己流、昔のやり方でやっていたから。ソースが一番変わったみたいね」小川友英さん(90歳・要介護1)。

なないろクッキングスタジオは、都内に3店舗。成城・三軒茶屋に同規模の事業所がある。いずれも 料理特化型のデイサービスだ。人気は上々で、定員オーバーキャンセル待ちの曜日もあるという。ただ、開設当初の軌道に乗るまでには時間がかかった。最大の壁は利用者や家族ではなく、むしろ「認知症の知識ある介護の専門職へ理解を広めることでした」と神永さんは漏らす。

「預かり型ではなく短時間であることや、最初のうちはデイサービスでお風呂がないこと自体驚かれました。デイサービスへ行く=お風呂に入るという常識が強くありましたから。差別化したかったし、料理をすることで機能訓練としての効果と成果を出したいと思ったので、料理活動に特化するスタイルを選びました」

デイサービスの新業態開発に一つの答えを出したなないろクッキングスタジオ。今後も、クオリティを確保しつつ、なないろらしさが出せるエリアを厳選して展開していくという。

なないろクッキングスタジオ
自由が丘

〒152-0023
東京都目黒区八雲2-9-4
TEL 03-5731-8621
https://www.sykz.co.jp/nanairo/facility-guide/