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ふれあいの輪は、新しいホームケア・在宅介護を目指して、
(公財)フランスベッド・ホームケア財団によって
運営されています。

ふれあいの輪

日日- HiBi - Day-to-Day

旅

どんな傷を負おうとも
わすれないで
自分で
じぶんを
愛するということ

 未完成の旅がある。薄暗い心の穴と連動し、

それは時折ひりひりと疼く。

 いわゆる「お伊勢参り」を計画していた。

鈴鹿のF1チケットも取り、レーサーの名前

も頭にたっぷり詰め込んだ。出発の直前、義

弟Eiちゃんが唐突に天に召された。私達の

大切な時計が永遠に止まってしまった。

 あれから5年。コロナ禍もあり旅そのもの

が遠のいていた。ふと、テレビ画面に映った

世界遺産の映像美を横眼に、

「久々に、しおりでも作ろっか」

 あの旅のリベンジをしようよと、夫が。

「うん、うん。いこう」

 私は以前キャンセルしてしまった人達と、

再びの約束を交わし始めた。愛用している鈴

鹿墨の職人Kさん。伊勢神宮近く、ロゴを揮

毫したレストランのNさん。Eiちゃんとの

お別れに、心底の温かな言葉をくれた方々。

 これは、再生の旅。日々の何気ない移ろい

の中で、絶望は少しずつ和らいでゆく。

 旅とは、心の解放だ。自分を愛する時空だ

とも思う。移動距離は関係ない。お気に入り

の公園、カフェ、散歩道。たとえ、介護中心の

日々であっても。旅は、誰の心にも不可欠な

「自愛」なのだ。

石崎甘雨