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ご意見・ご感想

ふれあいの輪は、新しいホームケア・在宅介護を目指して、
(公財)フランスベッド・ホームケア財団によって
運営されています。

ふれあいの輪

介護最前線Front line of Nursing

石本 将宏氏

さわやか倶楽部/北九州市小倉北区

取締役 石本 将宏

“人生を支える”のが介護本来の仕事。
産学連携も介護IoT導入も、ゴールは同じです。

介護事業大手のSOMPOケアは、昨年、介護ICTを利用した実証実験の成果を発表した。その内容は、「見守り機器や介護ロボットなどをうまく使いこなせば、施設入居者4人を職員1人で対応できる」というもの。現行の人員配置基準3対1の緩和につながる提案は、人手不足で先が見えない介護業界にはグッドニュースのはず。ところが「大手だからできた」と、介護事業者の反応は総じて冷ややかだった。そんな中、「ウチもやってみよう」と手を挙げたのが、産学連携を推進し、地域の社会資源と連携した取り組みに実績をもつさわやか倶楽部(福岡県北九州市)だ。「さわやか宗像館」(介護付有料老人ホーム)でお話を聞いた。

さわやか倶楽部/北九州市小倉北区

運営指導部 部長 原野氏

介護付有料老人ホーム さわやか宗像館

口腔ケアの時間短縮を実現(with 九州歯科大学)

東証スタンダード上場・㈱ウチヤマホールディングス傘下のさわやか倶楽部は、高齢者向け介護施設や障害児向けの放課後等デイサービスなど、全国に約130施設を運営している介護事業者だ。その特色は、北海道から九州まで文字通り全国展開を実現していることと、地域の大学や特定分野に強みを持つ研究機関との「産学連携」を強力に推進していることだ。

本社を置く福岡県を例にとると、九州歯科大学、九州大学、九州工業大学、久留米大学などとコラボ。先端技術や地域の社会資源を導入することにより、人材不足をはじめとした介護業界の喫緊の課題に挑戦し続けてきた。

「なぜ産学連携に力を注いでいるかというと、いちばんは介護サービスをもっと良くしたいから。食事や排せつ介助はもちろん重要な仕事であるけれど、それは介護の一部であって本質ではない。高齢者の“人生を支える”ことが介護事業者の役割だと考えているからです」(石本将宏取締役)

提携事例を二つ紹介しよう。まずは、九州歯科大学との「口腔ケア」分野のコラボだ。さわやか倶楽部の看護職・介護職の多くは、「口腔保健衛生指導者」という資格をもっている。これは、同大学の監修・指導により生まれた社内認定資格。試験は筆記ではなく、実際に口腔ケアをしている動画をもとに合否を判定されるという。

「大学の関係者に施設を見学していただいた中から生まれたアイデアで、口腔ケアの手技を上達させることで、口腔ケアにかける時間をかなり短縮できると考えました。口腔ケアは毎日必要な業務でそうとうの時間を費やしていますから」と石本さん。こうして誕生した口腔保健衛生の指導者は、全国1600名を数えるという。

資格創設から5年、結果として利用者が肺炎を起こす確率は約12%減少したという。また、時間短縮により捻出された時間を利用者とのコミュニケーションなどに充てることで、より質の高いサービスとQOL(生活の質)向上につなげることができた。

介護支援専門員 井元氏

『ライフマップ』で本音を引き出す(with 九州大学)

ワークショップを共同開催するなど交流のある九州大学大学院とのコラボ成果が、好評につき製品化された『ライフマップ』である。インクルーシブデザイン(高齢者・障がい者、外国人など、多様な人々に受け入れられるデザイン)の権威・平井康之教授による入居者ヒアリングから生まれたアイデアだ。

ライフマップは、生まれた時から今日に至る利用者の身の回りに起きたことと、これからの生活の中で実現したいことを聞き出し、イラストを使って可視化したもの。ケアプラン作成時には聞き出せなかった入居者の願望や、職員が気づかない本音を引き出し、生きがいづくりとその実践に取り組むためのツールだ。

「ヒアリングを通じてわかったのは、利用者の本当の声を私たちが聴けていないこと。毎日お世話している介護職員には普段言えないことを、外部の人にはスラスラと話していることにヒントを得ました。ライフマップの作成を通じてその人が今一番困っていること、本当にしたいことが明らかになります。それを知ることで職員は生きがいづくりに向けたサービスを提供できるようになります」

一例をあげよう。要介護4、糖尿病が進みほぼ寝たきりの男性入居者がいた。トイレも介助が必要。そんな彼がライフマップ作成中にふとつぶやいた言葉がある。「昔、家族と行ってた北九州で一番うまいラーメン屋に、死ぬ前にもう一度行きたいんだ」。職員も初耳だった。

とはいえ、今の身体状況ではとても連れて行けない。そこで職員は、そのラーメンを食べることを当面の目標に設定し、つらいリハビリや歩行訓練に取り組むことにした。半年後、現実的な目標を得て努力した彼は要介護2まで改善。ラーメン店までは歩いて行くことができたという。

「目から入る情報の方がお互い想像力がわくので、過去の趣味や仕事など全部イラストにして貼っています。作成されたマップには、若い日の出来事や語られなかった想いが表現されていて、ご家族も知らなかったと驚くこともしばしばです」(運営指導部・原野聖士部長)

認知症の利用者にも試したところ、ライフマップの作成が呼び水となり、昔のことを思い出すこともあるという。さわやか倶楽部では、今、認知症へのアプローチツールとしての活用法を模索中だ。

IoT Fonlog活用タブレット

スマホ対応

離床センサー

寝返支援ベッド操作画面

施設大広間

介護ICTで業務の効率化を推進(with 九州工業大学)

介護現場では、見守り機器や介護ロボットによる介護ICTの推進が顕著にみられる。この分野では九州工業大学や民間企業とともに、IoTセンサーとビッグデータ分析を活用した、介護・看護職員の行動記録と機械学習による行動認識・業務分析の実証実験が進んでいる。

「介護業務の効率化や人手不足の解消は介護業界共通の最重要課題で、我々も介護現場の改革を掲げ早くから取り組んでいます。この度、厚労省の「令和5年度介護ロボット等による生産性向上の取組に関する効果測定事業」への取り組みにも参加をさせていただいております」(石本さん)

生産性向上への取り組みの原点は、九州工業大学の井上創造研究室で行われたスマートフォン用の介護記録アプリ「FonLog」の導入だった。「センサーでとったデータと実際の介護業務を結びつけたところ、記録に関する業務に費やす時間が一番長く、8時間勤務のうち40~50分を占める。ここから改善しなければと思いました」(原野さん)

FonLog導入により、記録業務にかかわる時間の約4割を削減できたという。
また、記録システムの開発は時間短縮だけではなく、職員間の意思疎通にも大きな効果をもたらした。「データを容易に分析できるようになったので、一人のベテラン職員が業務をリードするのではなく、得られた知見を皆で話し合って改善策を導く職場環境が生まれました」(井元雄基ケアマネジャー)

さらに、記録システムと見守り機器を連携させることで、介護労働においては不可避と考えられていた業務のスリム化や時間短縮が実現。詳細なデータはまだ解析中で公表できないが、夜間巡視の4~5回が1回に、時間外勤務は65%減、夜勤者の歩行数はほぼ20%削減された。

現在は、介護記録自動入力化の精度をさらに上げるとともに、ビッグデータの検証を行いながら、他の事業者とも連携することで介護業界の社会課題解決に取り組んでいる。

ちなみに、さわやか倶楽部は海外からの人材雇用でも業界をリードしている。現在、全国の事業所で働く外国人は140人。外国人介護人材をコンスタントに採用するためにインドネシアに日本語学校を設立し、安心して送り出せる環境づくりに努めている。

産学連携も介護ICTの導入も目指すゴールは同じだ。「介護自体をもっと良いものにしたいという気持ちがすべての源にある。利用者の“人生を支える”という介護事業者本来の役割を果たすために、いろいろなアイデアやツールを駆使して業務の効率化を図り、時間を捻出するようにしています」──石本さんの一言が心に残った。

連絡先

〒802-0044
福岡県北九州市小倉北区熊本2-10-10内山第20ビル1階
株式会社さわやか倶楽部
TEL:093-551-5555
FAX:093-513-3222
~さわやか倶楽部HP~
URL:http://www.sawayakaclub.jp/