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ご意見・ご感想

ふれあいの輪は、新しいホームケア・在宅介護を目指して、
(公財)フランスベッド・ホームケア財団によって
運営されています。

ふれあいの輪

在宅ケアケース事例Home care case example

白澤 正和氏

国際医療福祉大学大学院教授
日本ケアマネジメント学会理事長

白澤 正和

小規模多機能の特性を生かした
独居・認知症高齢者の介護サービス導入

今後、一人暮らし高齢者が増え、同時に認知症の人も増えていくことにより、“独居の認知症の高齢者”の急増は避けられない。独居でかつ認知症の高齢者は、自ら医療機関などに診てもらうことは考えにくく、また関係者は「どの時点まで在宅が可能なのか」を、本人の意思を最大限尊重しながら見極めねばならない。ケアマネジャーは一人暮らしの認知症高齢者をできる限り質の高い在宅生活を支え、かつ在宅生活の限界を利用者と一緒に探っていく姿勢が求められる。

今回の事例

株式会社フジケア
小規模多機能ケア都の杜

白木 裕子
(介護支援専門員)

支援経過

心配した息子さんが地域包括に相談

弊社の小規模多機能サービスの利用について、地域包括支援センターから問い合わせの電話があったのは令和2年7月のことでした。

対象は、当事業所の近くのマンションで一人暮らし(ご主人は数年前に死去)をされている当時82歳女性のAさんでした。

働き者のAさんは、40歳代後半から80歳くらいまで乳酸菌飲料の訪問販売の仕事をしていました。
頼れる親族は、一人息子が関東にいるだけで、日ごろは、近隣の2人の同僚が心配して時折本人の様子を見に来るなどの交流がありました。
しかし、70歳代後半になると配達場所を忘れることや旧価格で商品を販売するなど、もの忘れによるトラブルが顕著になってきました。

このため、心配した上司が息子さんに連絡して、医師の診断を受けたところ、アルツハイマー型認知症と診断され、その後、要介護1の認定を受けることとなりました。

ところが当人は現実を受け入ることなく、そのまま仕事を続けていましたが、令和に入ったころから道が分からなくなるなどして何度か警察に保護されることもありました。

心配した息子さんは、帰郷して施設入居を勧めましたが、本人は夫と頑張って購入したマンションに強い愛着があり、頑なに施設入居を拒みました。

困った息子さんは地域包括支援センターに相談し、担当者の勧めで小規模多機能サービスの利用に結びついたのです。

担当者を決め、必ず同じ人が支援を行う

ケアマネジャーが支援計画担当者が初めて自宅を訪問した時は、テーブルの上に食べ残した食品が放置されるなど、居室は散乱し腐敗臭がありました。
その中で本人と面談したところ、本人には認知症についての認識はなく、日常生活には何ら困ることはないと言われました。
しかし、本人の了解を得て室内を観察すると、
①お風呂に入った形跡がない。
②室内が全く整理整頓されておらず、衣類が山と積まれている。
③雑多なものが床に散らばり転倒リスクが高い。
④冷蔵庫内には同じ食材があふれ、中には腐敗したものもある。
⑤ゴミ出しがされておらず、この先ゴミ屋敷になるリスクもある。
このような暮らしぶりから、明らかに介護サービスが必要な段階にあることが分かりました。

喫緊の課題は、いやがる本人をいかにして介護サービスに導入してもらえるかでした。自宅の給湯器が故障していることを本人に示して、お風呂に入ることを目的に誘うようにしました。
事業所のお風呂に入り、気持ちよくなったところで息子さんから預かった新しい下着と服を渡し、着替えたものは私たちが洗濯して乾燥機にかけました。訪問するたびにこれを何度も繰り返すことで、ご本人も徐々に私たちの介入を受け入れるようになりました。

一番気をつけたのはスタッフの固定です。スタッフと顔見知りの関係になるまで、できるだけ同じスタッフによる送迎、訪問を繰り返し行いました。
送迎の度に人が替わっては、本人は覚えられません。また、声かけ時には「息子さんから頼まれたので」という言葉を多用し、信頼感をもってもらえるよう努めました。ATMの操作が分からずにカードが使えなくなるなど金銭管理を含めて生活のほころびが多くなるにつれて、スタッフに頼る場面も増え小規模多機能ケアに通うことについて抵抗がなくなってきました。
それでも、通所日に迎えに行くと、私はそんなところに行かないと断られることもありました。その際は、無理強いすることなく数時間経過して、再度迎えに行くと問題なく通所することができました。

また、サービス提供の契約後、主治医に連絡して面談を申し込んだところ、高血圧や高脂血症等で服薬が必要にもかかわらず、受診がなされていなかったことが分かりました。
このため、定期的な受診ができるよう支援を行うとともに、服薬についても1日1回で済むよう調整を図りました。

幸いにも近隣に2人の同僚が住んでいたため、通所サービスから帰宅する16時頃に、徒歩で3分ぐらいのスーパーに夕飯の総菜を一緒に買いに行ってもらうなどの支援をお願いすることができました。また、同じマンションに住む友人が、通所サービスに通わない日などはお茶を飲みに立ち寄るなどの交流が持たれるなど、インフォーマルな支援もあって当面在宅生活を続けていくことができました。

フレキシビリティーが最大の魅力

このようにして始まった小規模多機能サービスの利用ですが、Aさんの場合、基本は「通い」と「訪問」の組み合わせで、「通い」は週3日、「訪問」は日曜を除いて毎日行いました。「訪問」では、夕飯の食べ残しや冷蔵庫の古くなった食材の廃棄とごみ出しなど、衛生面や転倒防止を含めて生活環境の整備に努めました。

息子さんが、Aさんの安否をいつでも確認したいからと寝室に遠隔(見守り)監視用のカメラを設置されました。ところが、リビングの長いすで寝てしまうことが多くカメラには写らないことが多かったため、レンズの向いた方向にちょうどいいお休み場所を新設するなどしました。

新型コロナの感染時期とも重なり、コロナ対応にも工夫しました。外出時は必ずマスク着用ですが、当人はそれを励行できません。スーパーでいろんな人から注意されたこともありました。そこで、外出時に気づくようマスクを着用して外出をしましょうという張り紙とドアにマスクをひっかけておくなどして注意を喚起しました。その効果があり、外出時にはマスクを着用することが可能となりました。

現在、Aさんは当事業所が運営する介護付き住宅型有料老人ホームに入居されています。コロナの8波がピークの頃、陽性が判明し、発熱のみの症状のため医療機関での入院ができず、当事業所での2週間の「泊まり」サービスで対応することとなりました。本人は「泊まり」を経験したのはこれが初めてでしたが、特段の抵抗や混乱することなく過ごすことができました。これも小規模多機能ケアで日ごろの顔なじみのスタッフのケアが提供されるため、本人の混乱もなく過ごすことができたと思います。
この経験が、契機となり小規模多機能事業所と同じ建物内の住宅型有料老人ホームに違和感を持つことなく住み替えていただくことができました。

住宅型有料老人ホームには同じ小規模多機能ケアを利用されている方も入居しているため、顔なじみの方のいる安心感となじみのある環境での生活に混乱なく過ごすことができました。

「小規模多機能居宅介護」は、柔軟な訪問や通いができること、台風の時などは泊まりも可能であることなど、独居の高齢者や認知症の方のさまざまなニーズに的確に対応できるサービスであると思います。
Aさんの性格や生活スタイルを加味して考えると、ベストな選択であったと思います。地域包括もそうした特性に着目して当事業所に依頼したのだと思います。
特に認知症の高齢者にとって、とてもフレキシブルにサービスを組み合わせて提供できます。本人にとっても家族にとっても安心できる仕組みなので、近年は注目度も高まり、最近はご家族が最初から希望されるケースも増えてきています。

看護小規模多機能型居宅介護の概要

(令和5年8月末時点)

障害高齢者の日常生活自立度/A2

認知症高齢者の日常生活自立度/ⅢA

介護サービス/小規模多機能 → 施設入所(介護付有料老人ホーム)

既往症 /アルツハイマー型認知症、高血圧

食  事/自立(準備は必要)

排  泄/自立(下着を汚すこともあるが)

入  浴/声かけ・促し必要も、大きな問題なし

身体状況/歩行可能(道に迷い、何度か警察に保護されている)

社会交流/居住マンションに知人あり。隣室に民生委員が住むが、折り合い悪く関与を拒む。

家族構成/10年前に夫を亡くし独居。関東に息子が在住。遠隔監視カメラを設置するなど、安否を気にかけてくれている。

今回のポイント

小規模多機能居宅介護は、「通い」や「訪問」の柔軟性において、
独居・認知症高齢者に適した介護サービスといえる。

一人暮らし認知症の人のケース発見

本事例は、アルツハイマー型認知症の独居の高齢女性(Aさん・85歳)について、遠くに住んでいる息子さんが心配して地域包括支援センターに相談したことで支援が始まった事例である。

こうした息子さんの働きかけがなければ、Aさんはさまざまな問題にぶつかりながらも、自ら支援を求めることはなく、介護サービスにつながらなかったと思われる。今日、このような独居の認知症の人は相当数おり、今後は急増していくが、こうしたケースをいかに発見し、支援に結び付けていくかが、ケアマネジャーにとって重要な課題となっている。

そのためには、日ごろから地域の中にさまざまなアンテナを張り、医療・介護をはじめとした専門職や地域の人々との連携を図ることで、一人暮らしの認知症の人を発見できる仕組みを地域の中に構築しておくことが大切である。介護保険制度は申請主義である以上、自発的に相談に行けない人を放置することなく、介護保険のサービスを含めたに多様な社会資源とつなげていかなければならない。それもケアマネジャーの重要な役割である。

小規模多機能型の長所を生かす

本事例では、Aさんを介護サービスの中でも「小規模多機能型居宅介護」に結び付けることにより、事業所に通ったり自宅に来てもらったりしながら独居で認知症のあるAさんを在宅で支えることになる。小規模多機能は、一事業所でデイサービス機能やヘルパー機能、さらにはショートステイ機能を柔軟でかつ一体的に提供することができることがメリットである。

本事例でまず評価できるポイントは、認知症のAさんとの密接な信頼関係を構築しつつ適切なサービス利用につなげていったことである。Aさんを不安・緊張を有しているが、通いも訪問もできる限り同じスタッフで対応する配慮をしたことで、信頼関係を築いていったことが評価できる。

小規模多機能のさらなる役割

小規模多機能のケアマネジャーは事業所内に配置されているが、自らの事業所内の訪問、通所、宿泊間での調整だけでなく、利用者のニーズに合わせたサービスやサポートにつないでいくことが求められる。本事例では、医療でのニーズがあるにも関わらず、主治医の受診ができていなかったため、再度主治医との調整を行っている。また「通い」の日には元同僚に惣菜の置物の付き添いを、それ以外の日には同じマンションに住む友人に見守りの役割を担ってもらうプランを作成し、実施している。

小規模多機能のケアマネジャーは自らの事業所のサービスを一つの社会資源に過ぎないと認識し、利用者のニーズに合わせて必要なフォーマル・インフォームルな社会資源に結びつけていくことが基本である。現在小規模多機能のケアマネジャーを職場外の外付けにする議論がされているが、上記のような支援ができていれば、こうした議論は起こらないといえる。

認知症とリロケーションダメージ

本事例は、コロナ禍の最中であったということもあり、在宅生活が大変難しい状況の中で泊りの機能を活用するに至った。結果的に、同じ法人が運営している有料老人ホームに入居することができた。

当初、施設入所を拒んでいたAさんが入所に無理なくつなげられたことは大きな成果といえる。認知症高齢者等の場合は、特に居住場所を移動した場合には、心理的な混乱が生じる「リロケーションダメージ」が生じやすい。本事例では、在宅から小規模多機能での「泊り」、同じ場所にある有料老人ホーム入所に導くことで「リロケーションダメージ」を和らげることができている。

認知症の人は環境が異なることで混乱を起こしやすいリロケーションダメージを緩和するために、小規模多機能での居住から同じ場所にある老人ホームに意図的に移すことで、環境の変化から生じる混乱を防ぐアプローチができていた点でも評価できる。

一人暮らしの認知症の人の在宅の限界

今回は、介護付き有料老人ホームに入ることによってAさんの在宅生活は終わりを迎えたが、できるだけ長く、あるいは最期まで自宅で過ごしたいという独居の認知症高齢者も数多くおられる。

こうした人たちの思いにどこまで寄り添って在宅生活を可能にするのかの課題がある。現実には、いずれかの時点で本人の在宅の限界がやってくるが、その際には「本人の意思決定支援」が重要な要素となる。

そこをしっかり見極めるためにも、ケアマネジャーは本人の意思を導き出していける信頼関係を築いていくことが求められる。人によっては最期まで自宅で一人暮らしをする選択をする場合もある。本人の意思をくみ取ってケアプラン作成に活かす努力を惜しんではならない。その場合には、小規模多機能は有効な社会資源であるといえる。